行政詐術としての食料自給率
2003年05月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

佐竹茂(衆議院議員鎌田さゆり事務所政策担当秘書)

『地球の水が危ない』(高橋裕著、岩波新書)という極めて真面目な本がある。仮説も含め参考となる内容であり、一読を薦めたい。しかし、末梢部分にやや気になることがある。

水の問題は食糧問題でもあり、食糧及び木材輸入は「水の輸入」でもある、という論理は至極妥当なものである。いわゆる「間接水」「仮想水」である。水の国際化、地球の運命共同体化という認識もまた妥当である。問題は以下のくだりである。

「日本の食糧(ママ)自給率は、食用と飼料用を合わせた穀物で2000年現在、約28%にすぎない。・・・全食糧を供給熱量自給率で計算すると、その自給率は70年には60%であったが、現在40%にまで低くなった。ちなみに欧米主要先進国の自給率は、・・・イタリアの87%を除き、いずれの国も100%である。・・・確たる長期計画を立てて、その向上に努力すべきである」(同書P107−108)

食料自給率に関しての常識はこんなところかもしれない。行政がいつもこの数字を持ち出し危機感(責任感ではない)を煽り、予算獲得に動くのは知られたことである。そこで、農水省自身が公表している「総合食料自給率」(平成13年食料需給表、農水省総合食料局15年3月)について引用してみる。全て平成13年の数字である。 「人口1億人以上国の穀物自給率(平成10年) 中国94%、インド100%、米国138%、インドネシア91%、ブラジル85%、パキスタン104%、ナイジェリア94%、バングラディッシュ89%、ロシア93%」

日本人は「国際比較好き」だが、自給率という数字が無意味の一例である。また、日本以外で、食料自給率を政策に取り入れている国はない。各国の自給率は農水省の試算にすぎない。 「穀物自給率28%、主食用穀物自給率60%、 供給熱量総合食料自給率40%、金額ベース総合食料自給率70%、飼料自給率25%」

なぜ、供給熱量(カロリー)ベースであり、なぜ金額ベースでないのか誰も説明しない。なぜ、主食用穀物でなく「飼料用+主食用+原料用」穀物なのかの説明もない。いずれにせよ、60%や70%は「忘れられた」数字なのである。

もう一つ隠された作為が「供給熱量総合食料自給率」にはある。

その計算に際して、輸入原料で生産された油脂・でんぷんは輸入品として、輸入飼料で育った家畜もまた輸入品として扱われるのである。

「金額ベース総合食料自給率」でも国内生産金額から飼料・原料輸入金額は控除される。農水式経済学の奥深さは計り知れない。付加価値=自給量なのだろうか?

そもそも、とうもろこし(飼料、原料用)の輸入量だけでも、国内産穀物量(米、麦等)より多いときに、抽象化は詐欺化に等しいのであり、穀物では、飼料、原料、主食用の自給率を誠実に重量及び金額で表せばよいのである。また食料では、穀物、野菜、肉類、加工品の品目別自給率を示せば十分である。大騒ぎの果てに、政策の実際が「飼料用作物生産の奨励」という程度では、「日本農業再生」論が泣き出すであろう。

国民の実感がないため、相手にもされないからよいが、中身を知らされず「一人歩き」させるのも、行政の術かもしれない。しかし、識者はそれを敢えて喧伝すべきではない。 (s-s-room@msg.biglobe.ne.jp)