「地元意識」が阻害するPPP(公私協働)

2003年07月10日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

渡瀬裕哉(特定非営利法人政策過程研究機構理事)


公共サービスの直接の供給者が行政のみである時代は終わった。新しい公共サービスの供給者としてのNPOが脚光を浴び始めた。その一方で、行政からNPOへの供給者間の移行が円滑に進んでいるとは言い難い。多くの自治体で協働事業を支援する中で、私はその移行を阻害している背景には、自治体の「地元意識」があると考えるようになった。

自治体の持つ「地元意識」とは、具体的には以下のようなものである。「これまで、本来は地域が担うべき仕事の一部を行政が引き受けてきた。しかし、行政も財政及び人員に余裕が無くなってきている。地域の仕事を地域に戻して行く必要がある。しかし、地域には行政の仕事を自発的に行う住民がいない。だから行政が事業を継続していかねばならない。」このような思いを多くの自治体職員が持っているのではないだろうか。しかし、残念なことに、この意識の中には「地域の仕事は地域の住民が行わねばならない」という先入観が既に存在している。この先入観こそが「地元意識」であり、公共サービスの供給者の移行を阻害している原因の一つであると考える。この問題は地味なポイントではあるが、類似の議論が多くの自治体で散見されているので、検討してみたい。

1970年代に行政の業務範囲は著しく拡大し、「すぐやる課」のような行き過ぎたサービス提供がなされ、本来は住民間でなされていた互助事業が行政に移管されたことは事実である。そこから、行政の業務を地域に戻していこうという発想が生まれることはある意味必然であった。しかし住民にとってはよりよい公共サービスが提供される事が重要であり、そのためには公共サービスの供給が特定の行政区内で完結される必然性はない。しかも現実に全ての行政区内に担い手となりうるNPOが存在するとは限らず、多くの場合には様々な機能を持ったNPOが地域的に点在、偏在しているのが現実である。また潜在的な担い手がいたとしても行政が直接業務を実施し続ければ、担い手としての住民が顕在化することはない。このような背景があるからこそ、既存の公共サービスの供給を行政区内のNPOのみに求めることは賢い選択ではない。地域外のNPOも含んだアウトソーシングを推進していくという方法が現実的かつ合理的であろう。一方で、行政が非効率な事業を継続する良い理由として「地元意識」が気付かずに利用されることがある。しかしこれでは、結果として優秀なNPOなどの活動範囲が限定されてしまい、社会的に大きなマイナスの結果を引き起こすことにもなるのである。

PPP(Public Private Partnership:公私協働)を積極的に推進している自治体であっても「地元意識」は抜け切れていない。例えば、NPOへのアウトソーシングの実施要綱の規定に「主たる事務所が当該自治体内にあること」という規定をよく見かける。このような規定はいったい何のためにあるのか。少なくとも公共サービスを受ける住民側にとっての意味は希薄である。自治体は住民へのサービスを充実させるという基本に立ち返り、自治体間のボーダレス化を促進するべきである。もちろん、自治体間で適度な競争は行われるべきである。しかし、それは純粋にサービスの「質」の観点から行われるべきではないだろうか。 (yuya1@cts.ne.jp)

*特定非営利法人政策過程研究機構理事。専門は公共経営論。複数の地方自治体で公私協働事業の実施支援業務を担当している。