精神疾患へのアフターケアを

2003年11月10日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

遠藤和歌(リサーチャー)


何かの事件で逮捕された容疑者に「精神科通院(入院)歴あり」という注釈がつくたびに、複雑な思いをする。私はうつ病と診断され精神科に通った経験がある。医師にかかることは何科であっても同じはずなのだが、「内科通院歴あり」と報道されたのを見たことがない。一方で、日本では昨年1年で約3万 2,000人が自らの命を自分で絶っているという。ここ5年の間その数は連続し、減る気配はない。なお、昨年の交通事故死者は約8,300人であり、ざっと3倍以上の人が自殺で亡くなっているのだ。自殺者のうち75%はうつ病などの精神疾患を持っているという統計もある。

うつ病を含む気分障害の患者の推計は、1999年の時点で2万6,000人(入院)、3万9,000人(外来)という数に上る。また、一生のうちにうつ病やその周辺の病気にかかる人は20%前後と言われる(5人に1人)。うつ病を扱ったTV-CMが流れ、新聞ではうつ病に関するコラムや記事が増え、またメンタルクリニックという名称により、治療を受けるきっかけは広がった。

それでも、うつ病にかかった人の半数以上は治療を受けていないという。理由の一つには、気分の落ち込みを本人も周囲も病気だと認識できないことがあげられる。我慢して限界までやろうとすることが、ますますうつ状態を悪化させる。「気の持ちようだ」「頑張れ」という言葉に応えようとするほど、身体が動かなくなることは私も経験した。そのもどかしさに死を考えることすらあるのだ。もう一つの理由は、精神科受診に対する偏見が依然として存在することである。これらの理由に共通することは、精神疾患に対する社会の見方である。「病気ではない、気の持ちようだ」と言う一方で、「病気だからダメだ」と扱うなど、一貫性のない対応をされることは多い。一度でも精神科にかかったら仕事がなくなるという不安を持つ人は少なくない。私も復職のために何度も上司に元気な姿を見せねばならなかった。ほとんどの医療保険や生命保険は、うつ病を含む精神疾患に一度でも罹った場合、加入を受け付けてはくれない。(私が問い合わせた数社は全て、「うつ病は治らない病気として扱います」と回答された。)

2003年9月厚生労働省は、うつ病による自殺防止のために、「地域におけるうつ対策検討会」を設置した。うつ病を地域で発見・予防するための方策を議論し、「地域保健医療従事者向けマニュアル」「都道府県・市町村向けマニュアル」を年内にまとめるという。確かに、情報提供は大切なことだ。私の場合、ネット上で簡単にできる「うつチェック」をきっかけに、自分の心身の様子の変化に気づくことができた。うつ病の原因がセロトニンやノルアドレナリンといった脳内の神経伝達物質(意欲や活力を伝達する)の働きが悪くなることだと知ることは、自分だけでなく家族や友人、職場の上司に理解を求める上で役立った。

本稿では、発見・予防の方策に加え、「アフターケア」への取り組みが必要であると述べたい。職場や家庭における回復期の対応の他、報道や医療・生命保険等に対してもそれぞれの精神疾患について正確な情報を提供し、偏見に基づいた対応を是正すべきである。復帰の見通しが見えず、通院歴がアダになる現状では、治療を受けるための壁は高いままであろう。

(yamatosongs@hotmail.com)