現役政策秘書による総選挙分析
2003年12月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

長谷川浩道(本田良一事務所政策秘書)


 1.「民主党政策の問題点」
 総選挙が終わった。結果は、与党の安定多数確保、民主党の躍進で、二大政党制に一歩近づいたというところがおおかたの評価であろう。一気に政権交代を目指した民主党にとっては、ほろ苦い勝利と言えるかも知れない。選挙戦術的には、民主党と自由党の合併という事態を受けて、危機感を持った与党側、つまり、自民党と公明党の協力が従来以上にスムーズに運んだこと、社民党が民主党側の熱心な呼びかけにも拘わらず、最後まで選挙協力を渋ったこと、などが挙げられる。しかしここでは、なぜ政権交代には達しなかったのか、民主党政策の問題点を指摘したい。

 「改革」という点では、小泉自民党も民主党も一致している。これが過去の与野党対立とは異なる点だ。しかし、小泉総理は、党内の抵抗勢力を押さえながら、自民党という枠組みは利用して、改革を進めようとしている。その方が効率的であり、実現性も高いと彼は読んでいる。一方民主党は、自民党のような政官癒着のしがらみはない。しかし、労働組合をはじめとする友好団体・組織に対してのしがらみはしっかり抱えている。労組や支持団体の関係しない分野の改革は、ほとんどフリーハンドであるが、そうでない分野では腰が引ける。本来、民主党は「小さな政府」論に立脚する政党のはずであるが、中小企業・農業・教育政策などでは「大きな政府」論に与する。例えば、マニフェストには「中小企業対策予算7倍増」が盛り込まれたが、中小企業対策は、予算のバラマキではなく、中小企業に対する資金供給の道筋を広げること、規制改革や税制改革、特許の公開などによって企業活動のフィールドを拡大すること、などの制度改革をまず進めるべきではないか。また先般、政府は、メキシコとの二国間自由貿易協定(FTA)締結に失敗した。これに限らず、我が国は、農業分野のないシンガポール以外のFTAに全て失敗している。WTOによる多国間協定(ラウンド)が決裂し、世界の貿易政策はFTAに向かっているが、我が国はその流れに完全に取り残されている。国内農業保護を優先させる政府・自民党農業族の強硬姿勢が交渉決裂を招いたのであるが、これを鋭く追及する菅民主党の姿はない。電機や自動車などの効率産業の足を引っ張り、農業・畜産などの非効率産業を過保護してその改革を遅らせていることにおいては、まさに民主党も同罪であり、これでは真の改革政党とは言えない。教育政策では、「30人学級実現」がマニフェスト化されているが、今の学校教育における改革のポイントは、教師の数を増やして受け持つ子供の数をどんどん減らしていくことではなくて、教師の「質」そのものを向上させることではないのか。いつも新聞を賑わす教員不祥事の記事を読む度に、これ以上教師を増やし続けることは、何の解決策にもならない、まさに税金の無駄遣いに思える。

 これらのバラマキ政策が民主党のマニフェストに羅列され、「改革の党」としてのイメージが今ひとつ国民の目に鮮明でない。自民党のいわゆる族議員とどこが違うのか、これならまだ小泉改革の方がマシだ、スピードは遅くても改革の方向には進むだろう、という結論になる。イギリスのブレア首相は、自らの労働党出身の立場を逆に利用して、支持母体の労働組合を説得して「苦い薬」を飲ませることに成功し、国民の支持を得て政権を獲得した。今回の民主党マニフェストでは、真の改革政党というイメージが今ひとつ明快ではない。「高速道路の無料化」という一見斬新な政策も、「それじゃ今までの公団の巨額の負債や維持管理費はどうなるの?」ということになって、一種のバラマキ政策で、やがて国民負担として跳ね返ってくると、選挙民には見通されている。「川辺川ダムや諫早湾干拓の中止」も一見カッコイイが、すでに使った巨額の工事費はまったくの捨て金になるわけで、環境派市民団体へのバラマキとも言える。それよりもどうして「新規の高速道路・空港・ダムなどの、国の大規模公共工事計画はすべてストップ」と言えないのか。

 選挙前にバタバタと決まった観のある民主党マニフェストが、しっかりした党内論議を経て決められているとは到底思えない。何か「地に足がついていない」のだ。そこで今回の総選挙における国民の反応は、政権交代は総論賛成、各論反対、民主党が今すぐ政権獲得する状況には至らなかつた。国民は、「小泉さんの方がマシ」という観点で、当面、小泉改革の方を選択したのであろう。民主党は次の選挙に向けて、今一度党内論議を尽くし、日本の将来像、方向性を明確にした、小泉改革を凌駕するマニフェストを提示する必要がある。 

2.「オバサンは保守の牙城」
 選挙前には、盛んに「民主党は女性の支持が少ない」というマスコミの分析結果が報道された。また民主党自身も、独自調査で「民主党は女性の支持が自民党よりも圧倒的に少ない」と認め、「身だしなみはきちんと」などと書かれた女性対策マニュアルを各候補者に配布するなどという、いささかマンガチックな一連の成り行きがあった。今回の総選挙では、果たしてどうであったろうか。是非、その結果を発表して貰いたい。

 私は、今回の総選挙でも、女性、特に40歳代から60歳代の女性の支持は、自民党に集中していたと思う。なぜなら、小泉総理や安倍幹事長の街頭演説には、大勢の人たちが集まる。その中でも特に熱心に声援を送る「女性」の主体は、40代から60代にかけての、いわゆる「オバサン」達である。いま、我が国社会の中で、元気のない男性に対して、もっとも活性化され、存在感のあるのは、この年代の女性達ではある。彼女たちの行動半径の広さ、多様さは、男性達を圧している。男性の行動半径は、職場と家、その途中の繁華街、仕事回り先など、ワンパターン化されているが、彼女たちはそうではない。六本木ヒルズがオープンしたと言えば、関東近県からは勿論、長野や関西からでも駆けつける。京都の紅葉がいいと言えば、首都圏からどっと押し寄せる。オフィス街で人気のランチがあると聞けば、昼前に並んでさっさと占拠する。もちろん、遊び歩き、食べ歩きだけではない。パートに精を出し、ボランティア活動などにも積極的に参加する。要するに彼女たちは、今の日本の生活を精一杯エンジョイしている。ということは、考え方は「保守」なのである。自民党を批判する小泉総理に人気があるのは、自民党総裁でありながら自民党を批判するところがカッコイイと思っているだけである。自民党を離党した田中真紀子さんにかつてのオバサン人気があるとは思えない。女性は古今東西、基本的にリアリストである。男のように「改革」を夢見たりはしない。今の自民党政権でいい、何も政権交代する必要はない。ましてや、今の総理は、従来の脂ぎった政治家のイメージではない。「純チャーン」と呼んでみたい。結局、そういうことではないだろうか。従って、この女性達にとっての「パックスジャパン(日本の小平和)」が続く限り、また小泉総理がテレビのワイドショーなどのスキャンダル報道に巻き込まれるようなことがない限り、中年女性の支持は当分民主党にはやってこないと知るべしである。民主党は、男性全般と、若者や老人世代の支持をしっかり取り付けることに精力を注ぐべきなのである。それでも政権交代は十分可能だ。もし政権交代して、民主党の世の中になって、何も不安はない、今の生活は十分維持されていると納得すれば、その時は彼女たちも民主党に目を向けるようになるだろう。その時の民主党党首がカッコよければ、なおさらである。候補者の「身だしなみ」の問題ではないと思うのである。