選挙公約としての予算案
2004年07月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

村尾信尚(関西学院大学教授)

 長期金利が上昇し始めた。この原稿を書いている6月18日時点の10年物国債流通利回りの終値は1.850%。2%台に迫っている。景気回復が本格化するなか、巨額の財政赤字の問題がクラウディング・アウトというかたちで顕在化してきたのである。

 金利上昇は民間の設備投資を抑制し、住宅ローン金利の引き上げを通じて個人消費にもマイナスの影響を与える。財政に対しても、国債の利払いに充てられる国債費の増加が財政赤字をさらに拡大させる。また、金利上昇は債券価格の下落を意味し、大量の国債を抱える金融機関の財務内容を悪化させる。今回の金利上昇が日本経済に与えるインパクトは深刻である。

 特に私が懸念するのは、将来も増加し続ける国債残高(平成16年度末480兆円)である。財務省の「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」によると、年度末の国債残高はこのまま行けば、17年度に500兆円突破、20年度に600兆円突破、23年度に700兆円突破、26年度に800兆円突破、29年度に900 兆円を突破する。今の日本の名目GDPは約500兆円だから、この国債残高の重圧は凄まじいものがある。財政再建に一刻の猶予も許されない。

 日本の財政事情は、公的債務残高の対GDP比(2004年、%)で比較すると、日本161.2、米国66.0、英国55.0、ドイツ66.7、フランス 72.0と、主要先進国中最悪である。ところで、財政赤字を縮小するためには、歳出カットか増税しかないが、一般政府総支出の対GDP比(2001年、%)を見ると、日本38.0、米国34.7、英国40.3、ドイツ48.3、フランス52.5と、日本は決して大きな政府ではなく、今後とも歳出削減に取り組んでいくにしても、これには限界がある。他方、国民負担率(日本は2004年度、その他は2001年、%)を見ると、日本35.5(うち租税負担率 21.1)、米国35.2(26.4)、英国50.2(40.3)、ドイツ55.3(30.1)、フランス63.9(39.1)と、日本は公的負担が低く、特に租税負担は主要先進国中最低である。財政再建を考えるとき、増税は避けて通れない。

 さて、今回の参院選、各党はまた公約なるものを発表している。ここで、私は、いやしくも公約とかマニフェストと称するからには、行政府の責任と判断で作成でき、行政府の包括的な政策方針を数値で示した予算案の概要を提示してもらいたいと考えている。さらに今後4年間の予算案を示せば、有権者は財政についての政権担当者の将来構想をイメージできる。

 私のいう予算案の概要は、それほど細かいものではない。国の場合であれば、国の収入としての歳入について、税金などの収入(租税及び印紙収入、平成16年度予算41.7兆円)、国有財産の売却など税金以外の収入(その他収入、3.8兆円)、借金(公債金収入36.6兆円)の3項目。国の支出としての歳出について、借金の元利金の返済(国債費、17.6兆円)、地方へ渡す金額(地方交付税交付金等、16.5兆円)、社会保障や公共事業など国の政策経費等(一般歳出等、 48.0兆円)の3項目。この6項目を4年分、すなわち6×4=24の数字について1,000億円単位で明示するのである。



































































  16年度 17年度 18年度 19年度 20年度
歳入計
82.1


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 租税及び印紙収入
41.7


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 その他収入
3.8


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 公債金収入
36.6

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歳出計

82.1


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 国債費
17.6


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 地方交付税交付金
16.5

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 一般歳出

48.0


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この表の?マークに数字を入れるだけで、
・経済成長率をどの程度見込んでいるのか?
・将来は増税なのか減税なのか?
・増税以外の歳入確保策はあるのか?     
・借金を減らすつもりがあるのかないのか?
・地方財政改革のやる気があるのかないのか?
・緊縮財政に転換するのかしないのか?
などについて、政権担当者の考えを確かめることができる。
今後4年間の予算案の概要こそ、選挙公約の第1ページに掲げるべきと考えるがどうか。
(了)

*1955 年岐阜県高山市生まれ。78年一橋大学経済学部を卒業し、同年大蔵省入省。95年三重県に総務部長として出向、北川正恭知事のもとで県庁改革に取り組む。 98年大蔵省に戻り主計局主計官、財務省理財局国債課長などを務めるなか、市民活動団体・納税者のための行革推進ネットワーク‘WHY NOT’を設立。
02年環境省総合環境政策局総務課長。同年末環境省を退官し、純粋無党派として三重県知事選挙に立候補、落選。03年10月関西学院大学教授。 同年11月「もうひとつの日本を考える会」。