公務員制度改革の視点

2004年10月10日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

荒井達夫(参議院法制局参事・常任委員会調査員)

 今回の公務員制度改革では、能力・実績主義の人事管理と再就職管理の適正化が柱となっており、人事評価基準の作成や天下りの承認について中央人事行政機関である人事院の関与をどの程度にするか、という権限問題を含んでいる。

 また、中央人事行政機関相互の連携強化を目的に、新たに内閣総理大臣の人事院への意見申出の権限も検討されている。

 これらの権限問題こそが公務員制度改革の最重要論点である。なぜなら人事院制度は、公務員は全体の奉仕者であると規定する憲法(15条2項)の下で、人事行政の中立公正性を確保するためのシステムとして創設されたものであり、人事院の権限いかんは人事行政の中立公正性sを左右する重大問題となるからである。

 人事院の創設は昭和23年、国家公務員制度に関するマッカーサー書簡に基づく国家公務員法の改正により、以前の人事委員会の組織・権限を大幅強化することにより行われた。公務員が全体の奉仕者であることを根拠に、公務員の争議行為を禁止するだけでなく、政治的制限を大幅強化し、その一方で高度の独立性と強力な権限を有する中央人事行政機関である人事院を設け、人事行政を厳正公平に行わせることとしたのである(※)。この点に関し当時、国家公務員法改正法案を審議した衆議院人事委員会で政府委員(臨時人事委員長)を務めた浅井清氏は、次のように答弁している。

 「憲法にも明らかに規定されております通り、国家公務員は国民全体の奉仕者であって、一部のものの利害の代表者であってはならないのでありますが、この原則に徹しますためには、現行国家公務員法の規定ではなお不十分な点がありますので、所要の改正を行った次第であります。」

 「不偏不党、いかなる勢力の制肘をも受けることなく、厳正公平な人事行政を行うとともに、国家公務員の福祉と利益との保護機関としての機能を果すためには、この委員会は、そのために必要とし、かつ十分な権限が与えられるとともに、あろう限りの独立性が確保されることを、必要欠くことのできない要件といたしますので、これに関して所要の改正を行うことにいたした次第であります。すなわち人事委員会を人事院と改め、従来内閣総理大臣の所轄のもとにあって総理庁の一外局でありましたのを、内閣に置き、他の行政機関に対し独立性を与えるとともに、財政的にもある程度の独立性を与えようとするものであります。またこれに関連いたしまして、人事院規則の制定につきましては、従来内閣総理大臣の承認を経ることとなっておりましたのを、人事院が独立にこれを制定し得ることといたしますとともに、人事院が処置する権限を与えられている行政部門においては、人事院の決定及び処分は、人事院によってのみ審査されることといたしたのであります。」(昭和23年11月11日、衆議院人事委員会議録第3号1〜2頁)

  このように人事院は単に公務員の労働基本権(憲法28条)制約の代償措置としてではなく、公務員の全体の奉仕者性(憲法15条)を根拠に、人事行政の中立公正性確保のために国家行政組織において特別な地位を持つ機関として設置されたのである。

 今回の公務員制度改革では、全体の奉仕者性に基づく労働基本権制約・政治的制限は従来のまま一切変更されていない。人事院制度創設の国家公務員法改正の審議を鑑みれば、今回の制度改革が憲法に基づく公務員制度の理念について変更を迫る可能性があることは否定できない。国家公務員法の原点に立ち返り、憲法が求める人事行政の中立公正性を確保するため、中央人事行政機関の組織・権限は本来どうあるべきかを最重要論点として議論すべきと考える。

(※)現行国家公務員法の天下り規制に関する規定(103条)も同時に設けられた。

*中央大学法学部・信州大学経済学部卒業。政策法務、特に立法における経済学的思考の必要性に関心あり、証券取引法損失補てん処罰規定の非合理性・違憲性を指摘、学説論争となる。
(email: tatsuo_arai(atmark)sangiin-sk.go.jp)