独立行政法人制度と特殊法人等改革に関する研究―理念と政策上の課題―

2004年12月10日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

西山慶司(法政大学大学院政策評価研究所 客員研究員 )

1.はじめに

独立行政法人(以下「独法」)制度は、政府から独立した法人格を有する機関が自律性や自主性をもち、このことによって透明性の高い効率的な運営を目指すことが期待されている。この制度によって、これまで国の事務・事業が分離されたことにより設立された独法(いわゆる「先行独法」。)に加え、特殊法人・認可法人(以下、「特殊法人等」)から移行した独法(いわゆる「移行独法」。)が順次設立されている。

本稿では、独法制度が特殊法人等の改革という目的を達成するために応え得る制度かについて考察する。

2.独法制度の特徴

独法制度は、政策立案機能と執行機能を分離することによって、「管理の自由」という組織管理の理念を制度化したものである。他方、上記の目的のために、これまでの包括的な政府の関与から統制手段の公式化が意図されており、この点を最大の特徴としている。

まず、目標及び計画の作成に関しては、主務大臣が3年以上5年以下の目標期間を定め、中期目標を設定し、これを独法に指示する。独法は、これを受けて中期目標を達成するための措置を盛り込んだ中期計画を作成し、主務大臣の認可を得なければならない。主務大臣が中期目標を設定、あるいは中期計画を認可しようとするときは、あらかじめ各府省の独立行政法人評価委員会(以下、「府省委員会」)の意見を聴くことを求められている。独法は、中期計画にもとづき年度毎に年度計画を定め、これを主務大臣に届け出る必要がある。

次に、年度及び中期目標期間の業務実績については、府省委員会が評価を行い、独法及び総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会(以下、「総務省委員会」。)にこれらの評価結果を通知するとともに、独法に対して業務運営の改善等の勧告を行うことができる。また、これらの評価結果について、総務省委員会は府省委員会に対して意見を述べることが可能である。

そして、中期目標期間の終了時においては、主務大臣が独法の業務を継続させる必要性や組織のあり方等につき検討を行い、次期の業務・組織運営等に反映すべく所要の措置を講ずる。その際、主務大臣は府省委員会の意見を聴くことを求められており、また総務省委員会は主要な事務・事業の改廃につき主務大臣に対して勧告することができる。

3.独法制度の派生的課題

(1)中期目標の数値化に付随する課題

当初、独法化が決定された事務・事業は、たとえば試験研究や検査検定といった「サービス」業務が対象となっていた。そのため、これらの事務・事業から形成された先行独法は、中期目標の設定においても、必然的に具体的な評価項目の設定が可能となっている。他方、移行独法は、建設や開発に対する金融支援などにより多様な事業の促進・発展を担う組織であることから、上記機関とくらべて定量的な中期目標をたてにくい。中期目標の数値化が困難な事務・事業にもかかわらずそれに偏ることが、特殊法人等の事務・事業に係る非効率性の改善に繋がるかについては、疑問の余地がある。

そもそも、独法制度は、運営管理上の時間・労力・費用の削減を図るという意味での経済的効率性のみを、その目的としているものではない。つまり、「国以外の法人」が事務・事業を行うという独法固有の特徴を重視するのであれば、その対象としては、少なくとも民間でもまた行えないようなものが選択されることとなる。それゆえ、実施機関の役割に限定されない特殊法人等や、たとえ限定されたとしてもその事務・事業が複雑な特殊法人等も独法の対象となり得るのである。

(2)独法に対する統制の公式化に伴う課題

主務大臣は、中期目標の設定、中期計画の認可など、独法に対する新たな公式的統制をもっており、これが独法制度の自律性・自主性を損なう可能性を否定できない。つまり、創設された独法制度の理念は理解されていたとしても、主務官庁と独法との間に従来からの関与が存在しているならば、主務大臣による中期目標の設定や、これにもとづく独法による中期計画の策定に弾力性を欠き、独法の活性化とは逆の効果をもつこととなるからである。

また、独法に移行したからといって、内閣の介入に対して自律性や自主性を維持していけるかという問題もある。従来、ある特殊法人等が事務・事業の問題をおこした場合、その特殊法人等の主務官庁に対する国会の責任追及は徹底して行われたため、主務官庁の特殊法人等に対する監督は、計画段階から執行に至るまで詳細に行われたからである。つまり、特殊法人等に対して指摘されている問題に関しては、主務官庁だけでなく、内閣の関係も影響していることを無視できないのである。

(3)天下りの受け皿としての課題

最後に日本の行政の根本的な病理の一つであり、その対象は特殊法人等に限ったことものではないものの、特殊法人等の典型的な問題として、「天下り」の受け皿としての側面をあげておきたい。

独法制度では、官僚出身者が退職後に就くポストとしてだけの無意味な天下りは止めるべきという問題に対して、主務大臣が民間企業の経営者や経営に関するコンサルティング業務を行っている者を独法の長(理事長)として任命することが可能となっている。しかしながら、主務大臣が法人の長を任命する点は、特殊法人等の根拠法と同様である。そのため、独法への移行後も主務大臣が従来の意識をもったまま官僚出身者の天下りを認めるという懸念は残る。

ここで議論している天下りの問題は、官僚出身者に高い給与や退職金を支払っているという金銭的な問題に限定されない。官僚出身者による特殊法人等の事務・事業が、硬直化した体質を生み出していると考えられるからである。さらに重要なこととして、部長などの管理職に対しては通則法の枠外であり、独法は引き続き多数の官僚出身者を管理職として受け入れている。したがって、独法制度が天下りの受け皿問題を自動的に改善するとはいいがたく、特殊法人等の事務・事業に係る硬直性は解消されないおそれがある。

4.おわりに

以上から、特殊法人等を独法に移行させたとしても、必ずしも特殊法人等の抱える問題は解消されないことが明らかになった。それゆえ、特殊法人等の改革に独法制度を導入することは、同制度の理念である「管理の自由」と相反するおそれがある。

ただし、このことは独法制度そのものを否定することを意味しない。今後、特殊法人等の改革に対する実効性を高めるためには、独法の対象となる組織の多様化を認識し、運用面において独法制度の効果があらわれるような対応を求めていくことが必要であろう。

(出典:論文「独立行政法人制度と特殊法人等改革に関する研究:理念と政策上の課題」『季刊政策分析』第1巻第1号(2004年)の要旨・要約版)
*法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻修士課程修了。論文:「政府部内における「エージェンシー化」と統制の制度設計:日英比較によるNPMの理論と実際」『公共政策研究』第3号(2003年)、他。