神保町は外国人の古書店起業を支援せよ

2005年04月11日 14:50 : Comments (2) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

安藤 憲吾(東京商工会議所 事務局員)


週刊少年ジャンプに連載されていた「北斗の拳」にはケンシロウという格闘家が主人公として登場する。ケンシロウは“アタタタ”という雄叫びと共に敵の“秘孔”と呼ばれるツボを突き、「お前はもう死んでいる」という決めゼリフを吐く。ケンシロウの攻撃は速効性を欠くため、最初敵は「痛くも痒くもないぞ」と強がるが、“秘孔”を突かれた効果が体を一巡りした瞬間、体から血が四方に噴き出し、「ヒデブゥゥ!」という断末魔を上げて木っ端微塵となる…。

 この“秘孔”のアイディアを考え出したのは、集英社編集者の堀江信彦氏である。集英社の本社からほど近い、古書店や専門書店が集積する神保町の一角に、中国書籍専門店「東方書店」がある。堀江氏はここで、中国の医学生がツボの研究に励む様子を記した本を立ち読みしていた。その本の中に、自分のツボを試しに突いているうちにいつの間にか失明してしまった医学生の話があり、この話を読んで堀江氏は “秘孔”を元にした「北斗の拳」のアイディアを思いついたという。

 アジア経済研究所所長である藤田昌久は、知人とのコミュニケーションや場の雰囲気を通じ、ビジネスのヒントとなるようなアイディアが湧いてくる状況を知識外部性と読んでいる。堀江氏は“秘孔”のアイディアを思いついた時だけでなく、常日頃からマンガのアイディアを考える時、神保町の書店をぶらつく癖があったと言う。堀江氏にとって神保町の書店街は、知識外部性が溢れる場であったということができるであろう。

 堀江氏のような編集者、あるいは作家、また近年はデジタルコンテンツのクリエイター等、出版や編集に携わる専門家には、神保町の書店街のファンが多い。創作のきっかけとなる知識外部性に溢れているということが、クリエイティブな人間を惹き付ける神保町の魅力であろう。

 さて、2004年12月の時点で神保町近辺には150店程の古書店があるが、この内に海外で産まれた外国人が経営する古書店はわずか1店しかない。もし外国人が経営する古書店が神保町で増加すれば、独自の文化や習慣を背景として、日本人の古書店主では扱わない書籍が数多く扱われるようになるであろう。そして、日本語だけでなく世界中の言語の書籍を集めることで、創作のきっかけとなるような知識外部性もグローバルなものとなり、世界中からクリエイティブな人間が集うことで、神保町は“日本の本の街”から“世界のコンテンツクリエイトセンター”に発展することも考えられる。

 そこで神保町には、知識外部性をグローバルなものとするため、外国人の古書店起業を支援することを政策として提言したい。神保町の古書店には明治時代より、古書店の開業を志す若者を店員として雇い入れ、古書の価値を目利きできる人間に育て上げるという習慣がある。一人前になった若者は神保町近辺で古書店を開業することで、神保町には多様な古書店が立地するようになった。近年、日本への留学生の増加に伴い、日本語を理解できる外国人の若者は増加している。こうした外国人を古書店が開業できるまでに育て上げて、外国人による古書店が増加すれば、クリエイティブな活動に携わる世界中の人間にとって、神保町は魅力的な場所となっていくことだろう。


*1975年生まれ。1998年慶応義塾大学総合政策学部卒業後、東商入所。2005年中央大学大学院総合政策研究科修了。関心分野は地域発展戦略、経済のグローバル化。現在は東商国際部にて国際会議の運営等に携わる。