地域再生における地域通貨導入について

2005年04月11日 14:51 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

―政府の地域再生事業のとしての地域通貨とその課題―
井上 晶人(衆議院議員 若井康彦 政策担当秘書)

1.はじめに
地域再生が叫ばれている。現在の地域、特に地方経済は疲弊をしている。政府も、「地域再生法」の制定や、さまざまな地域再生関連の施策を行おうとしている。

地域再生は重要な事案であり、今の政府が行おうとしている方向性はよいと思う。しかし、個別事案を見てみると、それ相当に不足な点も見られる。本稿の目的は、政府が進めている地域再生事業の一環としての「地域通貨」の取り組みを取り上げ、今後の課題を指摘することである 。


2.地域通貨とは何か?
まず、地域通貨とは「特定の地域やコミュニティーの中で流通する価値の媒体」である 。つまりは、法定通貨とは別に(またはその呪縛から解放されるべく)、当該コミュニティー(地域を含む)でその構成員自らの手で、構成員のためにコミュニティーの活性化を図るべく、導入されるものである。流通対象が地域なら、地域振興もはかれる可能性もある。代表的なものとして、北海道栗山町の「クリン」、千葉県習志野市周辺の「ピーナツ」、兵庫県宝塚市の「ZUKA」などが挙げられ、全国で多くの地域で導入されている 。また、それらの地域では、それ相当に成功を収めているようである。その利点に着目したのか(?)、政府も地域再生事業の一環として、地域通貨を活用しようとしている。


3.地域通貨活用の具体例
具体的には、地域再生推進のためのプログラムの一環として、総務省内に「地域通貨モデルシステム検討委員会」を設置し、地域通貨のあり方やITを活用した流通実験のモデル提示を行っている。また、千葉県市川市、福岡県北九州市、熊本県小国町に実験認定を与えている。

言うまでもなく、地域再生として地域通貨を活用することには有効であり、この委員会の方向性は基本的によい。しかし、課題も残る。


4.地域通貨活用の課題
 課題として、次の3点が挙げられる。

(1)地域通貨は本来、コミュニティーの構成員主体で流通される通貨であるが、政府が主導する形となっている点。
(2)ITを活用した地域通貨モデルにおいて、住基カード及びインターネットを用いる点。
(3)発行・流通における法律面(法律的制約)。

(1)については、そもそも地域通貨とは、コミュニティーにおいて政府云々とは関係なく勝手に発行し、勝手に流通させてそのコミュニティーの活性化を図るものであるはずである。しかしながら、はじめから政府のモデルありきという印象を受ける。仮に、このモデルが今後普遍化するとするならば、モデルを導入した発行団体は一種の政府からのお墨付きをもらい、導入しない発行団体は異端に見られる可能性がある。したがって、このようなモデルを提示するのではなく、むしろ発行団体を支援するような仕組みを構築した方がより良いと思われる。

 (2)については、現行の地域通貨の形式として、紙幣を発行する紙幣方式、取引の度に金額や内容を書き込む通帳方式が主流となっている。
この方法は、多少は面倒な点もあるが、取引のたびに人と人とが触れ合うことが可能であり、これにより、そのコミュニティーは深化する。しかしインターネットを使用するなら、その種の触れあいが相対的に減少する可能性もある。そして、デジタル・ディバイドの問題、つまり高齢者を中心にインターネットを使わない(使えない)人を排除する可能性がある。

また、住基カードを使用する点について、そもそも住基カードとは住基ネットを利用することが前提をなっているものである。今回の流通実験で住基カードを使用することは、システム的に住基ネットを使用しないとしても、住基ネットに参加していない自治体や、市民がそれに自由参加の自治体に住む市民を排除することにもなる。したがって、インターネットや住基カードは使わない方法を考えるべきである。

(3)については、今回の実験以前から問題となっていることでもあるが、地域通貨の発行、流通に係る法律面の問題である。例えば、「出資法」、「銀行法」、「消費税法」、「通貨類似証券取締法」、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(新通貨法)」、「日本銀行法」、「前払式証票規制法」などに抵触する可能性がある。せっかくコミュニティーの深化をはかる目的で地域通貨を導入したにもかかわらず、法に触れ、処罰されるのであれば、導入するインセンティブを著しく下げる可能性がある。したがって、この点の改善も求められる。

 以上の点についてさらに検討され、よりよい地域通貨の流通がなされることを期待する。
(akihitoinoue@yahoo.co.uk)


1 筆者自身、2001年4月から2002年3月まで、山口市委託事業「山口地域通貨研究会」のメンバーとして、研究及び流通実験を行った。「山口地域通貨研究会」とは、山口大学大学院の松井範惇教授他4名で構成された、山口市において、地域通貨を活用した地域活性化を探ることを目的として山口市から委託された研究会である。
2001年10月から12月まで流通実験を行う。通帳方式で、通貨単位は「ワピー」。参加者(約120名)全員に「できること」、「してほしいこと」リストを配布し、メンバー間で相談の上取引。2002年3月に山口市に答申、答申をもって研究会は実質解散。その答申、経験はその後、山口市委託による「げんき」活動、山口県主導の地域通貨「ふしの」へ引き継がれている。

2 「新しい経済活動に伴う地域経済の活性化に関する研究会」報告書(5ページ)を引用。

3 山口県を含め、中国地方の地域通貨導入については、伊藤敏安(2004) 「中国地方における地域通貨への取り組みと課題」 『地域経済研究』(広島大学地域経済システム研究センター)第15号 p.p.79-89 を参照のこと


※本稿は、筆者の個人的見解を示したものであり、当該事務所及び当該代議士の見解と必ずしも一致しない点をご了承頂きたい。また、ページの都合上、本来数ページに渡るものを圧縮した形となっている。

*1975年 札幌生まれ。2004年3月、山口大学大学院修了。博士(学術)。研究分野は、公共政策論、計量経済学。現在、地域経済、開発経済を中心に研究中。趣味は、料理、クラシック、フレンチポップス、カラオケ等。