「移行後」に考えるべきこと〜指定管理者制度と公の施設の民主化〜
2005年06月14日 00:48 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎片山泰輔(跡見学園女子大学マネジメント学部 助教授)

運用段階に入る指定管理者制度
平成15年の地方自治法一部改正に伴い、公の施設の管理方式として導入された指定管理者制度をめぐっては、地方自治体やその外郭団体、さらには公の施設の管理運営に参入しようとする民間企業やNPO、そして、利用者である市民等を巻き込み、様々な議論が繰り広げられた。

「お役所仕事」を解消し効率的で質の高いサービスに期待を寄せる声がある一方、営利企業の参入によって公共性が損なわれるのではないかといった危惧や、中には仕事を失うリスクに対してヒステリックな拒否反応をする自治体あるいは外郭団体関係者等もみられた。それぞれの立場や施設ごとのおかれている状況には大きな違いがあり、ここでこれらを総括することはできないが、いずれにしても、公の施設のあり方をめぐってこれまでになく多くの議論が短期間に展開されたことは間違いない。

しかしながら、こうした騒ぎも、従来の管理委託方式をとる施設の新体制への以降期限が平成18年9月に迫る中で、具体的な運用の段階に移りつつある。自治体は年度をベースに動いているので、経過措置による移行期限は9月であっても、実際には年度はじめの4月から新制度に移行することを目指し、すでに条例の制定(改定)は昨年度末に終え、現在は指定管理者選定のための手順が示され選定の段階に入り、9月の議会では実際に指定を行うという段階にある自治体が多いものと思われる。

本来は、施設のミッションについての十分な議論を行い、それをもとに指定管理者選定の手続きを定めていくことが理想であるが、3年間という限られた移行期間の制約の中で、とにかく平成18年度に新体制に移行することが優先されてきたのはやむをえない面もあったと言えよう。しかし、指定管理者制度は、ひとたび指定が行われればそれで終わりというものではない。むしろ、最初の指定が行われ、制度が実際に運用され始めてからが重要であると言える。指定管理者制度の導入は、公の施設に関する政策を、より民主的で市民に近いものとしていく可能性を持っているからである。

議会の役割の高まり
まず、指定管理者制度の導入にあたって、議会の役割がこれまで以上に大きくなる点に注目する必要がある。すなわち、議会は3つの場面でこの制度に関わることになる。第一は、議会の基本的な役割である条例の制定、第二は、毎年の予算の議決、そして、第三は、指定管理者の指定に関する議決である。これまでの管理委託制度の場合は、いったん委託先が決定されると、行政の裁量によってそれが更新されていくというのが常であった。しかし、指定管理者制度の場合は、必ず期限が定められ、その期限が来るごとに、議会が再度指定を行う必要がでてくる。行政の担当者にとっては、議会対策の手間が増えたということにもなるが、視点を変えれば、市民から直接選ばれた議員が、公の施設の問題に関わる機会が確実に増えることを意味している。すでに熱心な地方議員の中にはこの制度についての研究会などを開催しはじめている例もみられる。二期目の管理者の指定、あるいは条例の改正等をめぐって、議員と有権者の間で多くの会話がかわされるようになることが期待される。

指定管理者の緊張感とアカウンタビリティ
また、期限が定められるということは、指定された機関に対して大きな緊張感をもたらすことになる。このことは、自治体出資法人であっても、民間企業であっても同様である。指定管理者として公の施設の管理運営にあたることになれば、従来のように行政の所管部署との関係をうまくやっていればよいということではなく、次の指定の際の競争相手となる企業やNPO、指定を行う議員やその背後にいる市民に対して、自らの存在意義を示していくことが求められることになる。すなわち、公の施設の管理運営にあたる者には、これまで以上にアカウンタビリティが求められることになると言えよう。

ここで重要なことは、このような緊張感の中で仕事を行うことになる指定管理者が、施設のミッションを意識し、市民に対して真に貢献する施設がどうあるべきかを常に考えるようになることである。こうした意識変化は、実際にサービスを行う中で得られる様々な経験を、ミッションの実現に向けた運営のあり方に生かすとともに、行政当局や議会、さらには市民に対して発信していくことにつながり、必要があれば条例や仕様の改定を促す契機となることも期待される。

指定管理者制度への移行とは、言ってみれば、市民(=納税者)が、公務員の労働力を購入する代わりに、指定管理者の提供するサービスを直接購入するようになる変化を意味する。行政(=公務員)の役割は、市民に対して「サービスを生産」する立場から、市民に代わって「サービスを購入」する立場に変化する。したがって、市民が欲していること(=政策目的)が何であるのかを明確にしたうえで、指定管理者に公共サービスの提供を委ねることになる。そのためには、行政は単なるアウトプットではなく、政策目的が実現したのかどうかを示すアウトカムの指標を十分に意識して、指定管理者の業績を評価する必要がある。事業を何回行い、何人集客すればよい、といったアウトプットの議論だけではすまされないのである。

しかしながら、アウトプットとアウトカムの関係、あるいは政策目的の達成度を示すアウトカムの指標などがどのようなものであるかは、行政の担当者が必ずしもアプリオリに把握できるものではない。その施設が果たしている公共的な役割については、現場の担当者自身がもっともよく知っている場合も多い。その施設の運営、事業を通じて、地域社会にどのような変化を与えているのか、という点については、こうした現場の担当者が積極的に発信していくことが重要である。

前述のとおり、議会における管理者の指定というイベントが定期的に発生するということは、施設のあり方やそれを定めた条例自体を見直す機会が定期的に訪れるということを意味している。こうした機会に、指定管理者側からの発信がうまく連携すれば、市民の立場にたった公の施設を創り出して行くための好循環が期待されるのである。


*慶應義塾大学経済学部、東京大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得。三和総合研究所等を経て現職。UFJ総合研究所主任研究員、関西学院大学大学院総合政策研究科客員助教授等を兼務。専門は財政・公共経済、文化政策。