「公選法の壁」−インターネット“解禁”には気をつけろ!
高橋茂(ボイスジャパン)
総選挙の注目点
2005年総選挙。インターネット上では、韓国やアメリカのようなリアル世界での目立った動きは、残念ながら見られなかった。日本特有の「ネット文化」といえるようなものもあり、今後もドラスティックな変化は望めないだろう。
しかし、注目すべき事象はいくつかあった。
1.マスメディア以外の特集サイト
2.ネットジャーナリストの出現
3.自民党のPR戦略
4.進歩のない立候補者サイト
5.まだまだ存在する公選法の壁
まず、1から4までを簡単に解説する。
1は、今までの主たる情報源だったマスメディアのサイトに加え、関心の高さもあってか、Yahoo!、gooやAllAbout、価格.comまでもが選挙特集を組んでいた。2のネットジャーナリストは、泉あいさんという一人の女性だ。個人的な評論を行うブログは山ほどあったが、今までに、自ら各党の党首や幹部クラスにインタビューし、録画した街頭演説のすべてを公開した人物はいない。各記事にはコメントやトラックバックがつき、アメリカですでに何人も出ているネットジャーナリストのスタイルを、おそらく日本で初めて確立したといえる。3は、自民党広報本部長代理の世耕弘成氏の卓越した行動力とPR戦略が自民党大勝に役立ったことが、さまざまなメディアで紹介された。4は、私が初めて『政策空間』の記事「インターネットでの選挙運動を標準化せよ」を書いた2年前と、あまり状況が変わっていないということだ。ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用者が900万人に迫ろうとしている(9月末時点、総務省発表)状況にも関わらず、ブログを有効に使っている候補者は皆無に等しい。
まだまだ存在する公選法の壁
今回問題としたいのは、5の「公選法の壁」である。今までも選挙があるたびに公選法に関する話題がネットを賑わした。「メルマガは発行しても良いのか?」「動画は?音声は?」「勝手連サイトは?政党は?」など。しかし、そもそもインターネットに関する記述がないために、過去の事例や総務省の見
解を“又聞き”して各人が判断し、“勝手”に更新を行ってきた。これでは、明確な判断ができないばかりか、噂が一人歩きをして、できることまでダメだということになりかねない。
以前から、インターネット解禁は何度も主張されてきた。「IT 時代の選挙運動に関する研究会」(2001年)、宮台真司氏が代表となって総務省に働きかけた「電脳有権者政治改革ネットワーク」(2001年)、そして民主党のマニフェスト他。ところが、韓国の大統領選などの例を見てネットの影響を恐れた
ためか、自民党は最近まで改正の動きをほとんど見せなかった。
しかし今回、総選挙をきっかけに「YES!プロジェクト」から派生したものや、木村剛氏、北川正恭氏らの「IT選挙推進協議会」など、新しい動きが生まれようとしている。そして、とうとう自民党内にもインターネットを選挙活動で解禁することを前提にした委員会が立ち上がり、その委員長を世耕弘成参議院議員が務めることになった。今まで後ろ向きの姿勢だった自民党が積極姿勢を見せたことで、一気に解禁に走るのではないかと期待が高まったわけだが、問題はそんなに単純なものではないようだ。それは、今までの経緯やインターネットの特性から、具体的に「解禁」の中身を考えてみればわかることだ。しかし、ネット上ではごくわずかしかこのような注意を促す意見は見あたらない。
解禁の声をあげる前に考えることがある
では、具体的に考えていこう。叩き台として民主党の「インターネットによる選挙運動の解禁について」をとりあげる。民主党の主張は、ホームページ・電子メール・iモード/Lモードの解禁。ホームページの解禁でポイントは4つ。
1.開設・維持に係る費用に関する規制は設けない
2.有料広告は規制する
3.中傷ホームページへの対策は公選法235条に従う
4.掲示用大型ディスプレー等は解禁しない
となっている。電子メールは中傷メールの記述のみだ。多少具体的な改正案が記述されている点では評価できるが、他に考えるべきことがある。今回は以
下の3点を挙げる。
1.想定する誹謗中傷の例
2.政治活動と選挙活動の棲み分け
3.有権者側の活動の制限
1の「誹謗中傷」は、匿名での発言が普通に許されるインターネットの世界には付き物だ。批判と中傷の境目を誰がどのように判断するのか。一般的には批判もしくは評論であっても、選挙期間中の立候補者にとって得票に影響する恐れがあれば、当事者にとっては「中傷」となり、そしてまた選挙妨害とな
る場合がある。
2は、公選法で使われている「政治活動」と「選挙活動」の棲み分けだ。リアルな世界では政治活動と選挙活動の違いがわかりやすいが、ネットの世界で
は、両活動をクロスして見せることも可能なため、公選法上の定義が当てはまらないケースが出てくる。
そして、最も問題なのは3の有権者側の活動だ。1の誹謗中傷にも関係するが、多くのサイトで特定候補者に対する批判が出た場合、逆に応援サイトがいくつも立ち上がった場合、そして、それらが仕掛けられている場合。ネット上が無法地帯になる恐れがある。アメリカではすでに例があるが、政党や候補者が有名ブロガーを使って好意的な意見を発信させることも可能であり、逆に牽制してしまうことも可能なのだ。この問題が表面化することにより、新たな「規制」ができてしまうことも考えられる。
「候補者はブログを持つべきだ」などという軽いノリの意見もよく見られるが、選挙期間中にコメントやトラックバックの対応に候補者が追われてしまうような状況は、選挙運動にとってプラスではない。私は、多くの候補者のEメール窓口を担当したことがあるが、選挙になると「参考までに教えてください」と、個人的な関心ごとをEメールで質問してきたり、わざと意地悪な質問を投げかけて、返答がないことを責め立てたりする輩が増えてきている。選挙期間中のインタラクティブな情報のやりとりには注意しなければならない。本人の発言によってすぐに荒れてしまうのが政治家サイトの特徴なのだ。もちろん、今後はそれらも含め、有権者からの声に応え、自分の主義主張を発信するツールとして、インターネットを使いこなしていく必要があるのは間違いない。
しかし、「解禁」とか「改正」などということばに安易に期待をしてしまうのではなく、逆に規制が厳しくなったり、「やっぱりだめだった」などと戻ったりすることのないように、私たち有権者の側でも十分に考え、冷静に議論を尽くす必要がある。(http://www.voicejapan.net/postmail/postmail.html)
参考サイト:
ブログ及びSNSの登録者数(平成17年9月末現在)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/051019_2.htmlインターネットによる選挙運動の解禁について(民主党)
http://www.dpj.or.jp/seisaku/gyosei/BOX_GY0023.html
このほかは、2005総選挙関連リンク集(http://www.voicejapan.net/senkyo/link.html)に掲載
*1960年、長野県生まれ。インターネットの統合ツール『ネット参謀』を開発し、政治家や市民活動などのサポートを行う。また、インターネット新聞の政治関連の企画も担当。現在は株式会社『世論社』代表取締役。

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