護憲では「集団的自衛権」は禁止できない
2005年11月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

堀井 義正(参議院議員藤末健三事務所 政策スタッフ) 
藤末 健三(参議院議員)


集団的自衛権とは

今日、国会における憲法の議論が過熱している。
自民党は今年、立党50周年を迎えるにあたり、憲法改正案を11月22日に発表する準備を着々と進めている。その改正案には、「集団的自衛権を認める」ことを前提とし、「自衛隊を軍隊化する」ことが明確に示されている。
この「集団的自衛権」とは、「他国と同盟を交わし、そのどちらかが攻められた場合、ともに行動し、当該国を守ること」である。これに対し、「自国に対する急迫不正の侵害があったときにそれに反撃すること」を「個別的自衛権」という。この二つの自衛権は、国連憲章第五十一条 (i) [自衛権]で認められており、国連の集団安全保障が発動するまでの間に自衛を行うことができることとなっている。つまり、国連による紛争処理が行なわれるまでの間、同盟国と一緒に自国又は同盟国を自衛することが集団的自衛権となる。
日本政府は、個別的自衛権について、「憲法第九条第一項は、独立国家に固有の自衛権までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められている」としており、わが国では1972年以来「集団的自衛権は有しているが、行使はできない (ii)」という解釈を行なっている。また、この解釈は、1981年の国会質問に対して当時の内閣法制局長官が答弁(iii)したなかにもある。つまり「自分自身を守ることはできても(個別的自衛権の行使)、他国と組んで互いに守りあうこと(集団的自衛権の行使)はできない」と憲法解釈で集団的自衛権を縛ったことになる。

集団的自衛権否認の意味

集団的自衛権の否認は、他国の戦争に日本が巻き込まれないための防波堤となっていると考える。例えば、日米安全保障条約という同盟条約があるが、第五条に「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」とあるように、防衛義務については片務的なものになっている。それゆえ自民党では多くの議員が「アメリカから守ってもらうだけではだめだ。日本もアメリカを守れるようにしなければならない」と説く。ゆえに自民党憲法改正案は、明示はしていないが、アメリカとの集団的自衛権を認めることとしている。
私たちは、集団的自衛権を認めることには絶対反対である。アメリカが戦後60年間に10を超える紛争に関与している。集団的自衛権の行使については、地域を限定する、国会の承認を義務付けるという制限を課すことを提案しているが、私たちは、集団的自衛権を認め、閣議決定及び国会承認によって集団的自衛権を行使できるようにすることに非常に不安を感じている。国民が選んだ議員が判断するから間違いはないとの意見もあるが、アメリカとの集団的自衛権を認めることは、わが国が国際紛争に巻き込まれる可能性を著しく高くすることになる。
なお、片務的な日米安全保障条約について、安全保障ただ乗り論が唱えられるが、わが国はアメリカに対し、防衛義務の見返りとして接受国支援体制を維持しており、金銭面・設備面での支援を行っている。
また、アメリカの対アジア戦略を考えた場合、基地を日本に設置している意義は非常に大きく、安全保障上の便益からみると、決して不公正なものではないと考えられる。
さらに、わが国は武力によらない安全保障の確立と武力によらない国際貢献を実施することにより、アメリカからも認められる地域的・国際的な貢献が可能であると考える。

護憲による集団的自衛権の否認は絶対ではない

自民党の改憲論に対し、共産党や社民党は、現行の憲法九条を堅持することにより、集団的自衛権を認めないとする護憲論を唱え続けている。
しかし、実はこの「憲法九条を堅持する」ことが、集団的自衛権を「完全に」否定することには繋がらないのである。それは、『現行憲法が集団的自衛権の行使を認めないとの解釈は、内閣法制局、つまり政府の見解に過ぎない』からである。当然、国会などにおける長年の議論を経た上で現在の解釈となっているのだが、内閣法制局の「日本国憲法では集団的自衛権は認められない」との解釈は、『法制局が解釈を変更するようなことがあれば、現行憲法の下でも集団的自衛権を容認する』という事態に成り得るのである。
私たちが質問主意書(iv)で「政府見解を変更しないことを担保した法令等の規定は既に存在するのか(v) 」「政府の憲法に関する解釈・運用が変更された事例は、過去にあるか(vi) 」を政府に問うたところ、「政府の憲法解釈を変更することを禁ずる旨を定める法令の規定は、存在しない (vii)」、「憲法に関する解釈・運用の変更に当たり得るものを挙げれば、(中略)憲法第六十六条第二項に規定する「文民」と自衛官との関係に関する見解がある(viii)」との答弁を得ている。
また、私たちは、質問主意書で「議員立法による集団的自衛権行使の容認について政府の見解を示されたい (ix)」と問うたところ、政府は、「一般論として」と前置きしながら、「政府としては、国会が制定した法律について、これを誠実に執行することは当然である(x)」と答弁している。つまり、内閣法制局の集団的自衛権の行使は認められないとの解釈は、立法府である国会の立法活動を縛ることはできず、国会は「集団的自衛権を認める法律を作る」ことができるわけである。
このように現在の憲法による集団的自衛権行使の否認は、@内閣法制局の解釈によるものであり、その解釈は変更される可能性があること、A国会議員が議員立法で集団的自衛権を認める法律を作ることができること、により非常に不安定なものであるといわざるを得ない。

集団的自衛権を完全に否定するため

このように現行憲法九条を護るだけでは、集団的自衛権を完全に否定することはできないことを意味する。そのため、憲法九条の理念を護るために、「集団的自衛権を否定する」旨を憲法に明記する必要がある。
私たちは、憲法九条に3項を追加し、「自衛隊の明記」、「領土外での武力行使の禁止」を明確にした改憲を提案する。これを叩き台として、さらに議論を進めていきたい。

憲法九条改正私案

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
3 国内外における平和維持活動の実働部隊として、自衛隊を設置する。領土外における武力行使は、これを認めない。
info@fujisue.net

i)国際連合憲章 第51条  この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。(以下、略。)
ii)1972年10月14日参議院決算委員会提出資料
iii)1981年6月3日参議院法務委員会における角田禮次郎内閣法制局長官答弁
iv)質問主意書とは 国会議員に認められた国政調査の方法の一つ。国会の会期中に文書によって国政一般について内閣に質問するもので、内閣からの答弁は閣議の了解が必要となる。
v)平成十七年十月十三日内閣参質一六三第九号
vi)同上
vii)平成十七年十月二十一日内閣参質一六三第九号答弁書
viii)同上
ix)平成十七年十月十三日内閣参質一六三第十号
x)平成十七年十月十三日内閣参質一六三第十号答弁書


*堀井義正:中央大学卒。参議院議員藤末健三事務所勤務。主に憲法関係、教育政策を担当。
*藤末健三:東京工業大学卒。MIT大学院、ハーバード大学院修士号取得。学術博士。通産省(現 経産省)、東京大学助教授を経て、2004年参議院議員初当選。現在は、早稲田大学や中国清華大学の客員教授も兼任。主な研究分野・関心領域は技術経営・外交政策・憲法・教育政策など。