IT政策の国連サミットが閉幕
2005年12月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (2) : このエントリーを含むはてなブックマーク

森 裕介(慶應義塾大学総合政策学部 学生)


「始まりの終わり」
国際商工会議所の名誉会長は総会の最終会合でチャーチルの演説を引用し、「これは始まりの終わりである」と、嬉しそうに語った。11月18日、国連主催の世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society)が、チュニジアの首都チュニスで閉幕した。沖縄サミットから続いてきた、4年にわたる国際的なインターネット政策の基礎議論が、このサミットで一段落したと言ってよい。
国連はこの10年余、毎年主題を定めてサミットを行っている。各国元首が何十人も集まる本当のサミットだ。国家政府同士の枠組みである国連が、環境問題など、国家政府のみでは対応しにくい問題群について、加盟国政府、国際機関と国連のオブザーバー、産業界、市民社会など多様な主体を参加させて討議するのが特徴である。
2003年と2005年の2回にわたって行われたこの世界情報社会サミットは、当初、地域間・世代間など多くの側面でみられるデジタルデバイドを解決させるための枠組みだった。しかし、しだいに「インターネットは誰がどのように管理すべきなのか」という統治の議論に拡大し、ついにはインターネットに関わるすべての問題を内包するようになっていった。単純に見えた当初の枠組みからは想像もつかないほど会議は混乱し、2003年にジュネーブで開催された第一回サミットは、課題の設定どころか、「問題の存在を確認する」ことしかできなかった。そこで関係者は、2005年のチュニスフェーズまでに「問題を定義する」ことが求められたのである。
チュニスにむけて地域会合とテーマ別会合が数多く開催され、合計で37種類もの文書がサミットへ報告された。結局各国は今回、一番の争点であった「インターネットガバナンス」について、多様な主体によるフォーラムを設置して「あらゆる議論」を5年間継続し、現状の管理体制には変更を加えないことで合意した。

現場の空気と実感
だが上述のようなまとめは、ごく一般的な視点からのものでしかない。私ははじめ、チュニスへは狭義の「インターネットガバナンス」を話し合う会議を見学しに行くつもりだった。しかし実際にはそれよりも、情報通信技術に関係する、とても広い意味での開発問題に関心を持つ参加者が数多くおり、全体から見れば「ガバナンス」を一番の関心ごとと考えていた参加者は一部に過ぎなかったように感じた。
そうは言っても政府の存在が小さかったわけではなく、むしろ非常に大きかった。サミットではLDC(後発開発途上国)でも先進国でも情報通信技術が政策課題となっていることや、国際政治の議題とすることがコンセンサスを得ていることも実感できた。
ただしサミットにおける「存在感の大きさ」は、採択された文書の文言に与えた影響とはあまり関係ないのかもしれない。サミットには「政府以外の主体」が数多くいたが、文書に与えられた影響はわずかだったように思える。逆に、たとえば中国は目に見える政府の議論にも市民社会にもほとんど存在感がなかったが、文言上では随所に彼らの「成果」を発見することができる。今回のサミットは最終的に2万3,000人余りが参加した巨大なイベントであったが、公式の「結果」に関与していた人数はそのうちのごく一部だけだったということだろう。
だが、サミットの「評価」は採択された文書のみに対して与えられるべきではない。その「門前町」で繰り広げられた無数のセッションや展示、さらには培われたであろう膨大な人脈についても言及されるべきである。
(s03941ym@sfc.keio.ac.jp)

*昭和60年生まれ、東京都出身。平成15年慶應義塾大学総合政策学部入学、現在在学中。16歳より評論文を発表し、高校生文化大賞他多数受賞。興味分野は情報社会論、安全保障論、インターネットガバナンスなど。