NHK受信料不払い問題への処方箋

2006年02月10日 00:00 : Comments (4) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎松崎 太朗(DC@ヤングライオンズ 共同幹事)

 ここ最近、一連のNHK不祥事による受信料の不払い問題が起こっており、NHK運営のための財源である受信料収益を圧迫している。確かに不祥事自体は問題であり、これに対して抗議の声が起こるのは仕方のないことである。しかし、それが不払いという形で行われることで、公共放送としてのNHKの存続が危ぶまれるという皮肉な結果を生んでしまっている。果たして、このような抗議の仕方は、法律的に正当性があり、また自分たちの首を絞める結果にはならないのであろうか。

そもそも受信料不払いは法律違反!
 ご存知の方は少ないかもしれないが、料金不払いは立派な法律違反である。放送法32条1項には、以下のように、受信契約義務が規定されている。

「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」

つまり法律に従えば「テレビ(またはテレビチューナー内蔵PC)を置いている家庭は、NHKを見るか否かに関わらず、受信料を払わなければいけない」のである。
 ところが、義務を履行していない者は、一連の不祥事が起こる前でも、全体の約3割と多かった。なぜなら、受信料を支払わなくても、特に罰則規定があるわけではないからだ。そのため一部では、「受信料を支払う=馬鹿正直」というイメージが先行し、不払いという違法行為が堂々と行われている状況にある。(その一方英国のBBCでは、受信料の不払いが罰金・懲役刑につながるようである。さらに、受信料支払証明がないとテレビが買えないというルールが徹底している。) 

収益モデルの崩壊危機
 それでも日本では、全体の約7割が受信料を納めており、その受信料収益を元に運営は行われてきた。しかし、一連の不祥事で急速に解約者が増大し、受信料収益が激減している。そのため、「国民は公共の利益のため、受信料を支払うものだ」という「性善説」に基づき運営されていたNHKの収益モデルが、このままでは崩壊する危機に直面している。

NHKは不要か
 確かに、この事態は、NHKという組織の体質と怠慢が招いたことであり、NHKの自業自得というべきである。それでもなおNHKは、以下の機能を社会に提供する「公共財」として必要であると考える。

 @高品質なコンテンツプロバイダー
 A非常時等に情報を満遍なく伝える「ライフライン」
 B放送技術等の発展のための「研究機関」

 @について言えば、視聴率にこだわらず、しっかりとした取材と分析に基づいた高品質な番組(『映像の世紀』や『世紀を超えて』等)を継続して作成し、ゴールデンタイムに放送をしているのは、NHKのみである(民放は基本視聴率を重視する結果バラエティ番組が中心であり、腰をすえた取材と調査に基づく重厚感のある番組が見られない)。
 A選挙・災害時の情報の品質に関しては、NHKが最も高い。
 Bは、NHKが所有する研究機関(NHK技研)の存在が大きい。デジタル放送の目玉になるハイビジョン放送はNHK技研にて研究され、実用化に至ったという事実がある。放送と通信の融合を考えた際、公益のために研究開発をする機関としてNHK技研が今後に果たす役割は大きい。

 つまりNHKは民放のように視聴率を稼いで利潤を追求するというよりも、国民に対して高い品質の映像情報を満遍なく安定供給するというミッションを持っている。そのため、公共放送としてNHKが果たす役割は重要であり、NHKをなくすこと=高品質な「情報」を供給するライフラインをなくすことにつながりかねない。NHKを維持するためには、政府やNHK内でも議論されている、NHKのあり方まで含めた抜本改革も必要であるが、それと同時に、崩れかけている収益モデルの再構築が急務である。

不払い対策:有料化が最も現実的
 とはいうものの、不払いを継続している人々に受信料を「払え」というのは困難である。また、BBCが行っているような罰則規定を設けることは国民には抵抗感があり、社会的にも簡単には受け入れられない制度であると思われる。それに代わる収益源の確保方法として「民営化」「広告収入の取り込み」などがあるが、これらは既存の民放の強い反発等が予想され、あまり現実的ではない。
 そこで考えられる選択肢としては、「有料放送化=画面のスクランブル化」というのが、最も不満の少ないやり方なのではないか。一部の社会的弱者に対しては、臨機応変にスクランブルの解除をしてもよいと思うが、原則として「受信料を支払わない=番組を見せない」という意味では、非常にフェアな施策だと思われる。
 これにより、NHKを観たい人は必ず受信料を支払わざるをえなくなり、逆に観ない人からは不満が出ることもなくなるので、解決策としてはよいのではないか。

さいごに
 以上のような施策を組めば、公共放送としての収益モデルを再構築することは可能である。ただし、この収益モデルは、「国民は受信料を自ら払わず、無断で番組を見る」という状況を前提とした、「性悪説」を基にしている。国民の「高いモラル」を頼み、NHK受信料の自発的な支払いにより成り立ってきた収益モデルを変えなければならない状況に、私は一抹の寂しさを覚える。


*慶應義塾大学総合政策学部卒業後、アメリカン大学国際関係大学院及びビジネススクールにて修士号取得(International Communication/M.B.A) 帰国後は外資系IT企業を経て、現在コンサルティングファームにて業務改革支援、新規事業計画策定支援等に従事。Younglions以外にも特定非営利活動法人FRI & Associatesにて活動。
政策的興味分野:外交安全保障、行政組織・非営利組織経営、政策実行評価指標の導入、放送・通信関連の政策・法律等。

DC@Young-Lions:ワシントンDC、日本を中心とした政策関連分野を専門とする若手プロフェッショナル及び大学院生、大学生のネットワーク組織で、2001 年7月に結成(会員数約200 名)。活動は、各種政策系セミナー、交流会の企画・運営、海外キャリア情報の提供、HP等を通じた政策アイデアの発信等。現在はワシントンDC、フィラデルフィア、東京に拠点を置き活動中。現在、ボードメンバーによる、政策空間へのリレー投稿を実施中。
Webサイト: http://www.younglions.jp/