アカウンタビリティを果たす公共経営―更なる透明性を求めた報告のあり方―

2006年02月10日 00:00 : Comments (1) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎濱野 和人(千葉商科大学大学院政策情報学研究科 修士課程)

1.「国の貸借対照表」の背景
 近年、「国の貸借対照表」が試案として作成されるようになった背景として、アカウンタビリティ の必要性や、民間企業の理念・手法を行政運営に適用させたNPMの導入などが挙げられる。
企業会計におけるアカウンタビリティでは、経営者がステイクホルダーである「株主」に対して説明を行っている。これを対し、国のアカウンタビリティでは(すべてを企業のアカウンタビリティと置き換えることは困難だが)、ある程度の部分において企業に対応させることができるだろう。
国の運営に必要となる資金は、国民が納める税金によって賄われている。「国の貸借対照表」を作成する場合、「誰のためのものか」「主権者は誰か」を明確にした上で作成しなければならない。税金を支払っているのは国民であることから、「主権者」は「納税者=国民」ということになる。よって、税金による財務運営を行う国は「国民」を「ステイクホルダー」として認識し対応することが不可欠である。
「国の貸借対照表」は、このような背景から『基本的考え方 』の中で「ストックの財政状況を一覧するもの」として作成されたものであり、自己(国)が行っている経営の正当性を示し、有用性を高めるためのものである。

2.アカウンタビリティ性向上の検討
 現在「国の貸借対照表」を作成するにあたり、省庁ごとにその大元となる財務書類を作成している。それが「省庁別財務書類」(以下、「財務書類」)である。
財務書類は、各省庁がどんな事柄に対して税金を使用したのかについて、ある程度詳細に記載されている。また省庁ごとに貸借対照表の内訳を示した「附属明細書」なども作成されている。「国の貸借対照表」の裏付けとして公開されている財務書類や附属明細書などからも、国がステイクホルダーに対するアカウンタビリティを果たし、自己の正当性を示すための努力を行っていることが伺える。
しかし、「国の貸借対照表」にはまだまだ検討を要する事項が多い。その中のひとつとして挙げられるのが「ストックの財政状況を一覧するもの」という考え方である。この考え方で「国の貸借対照表」が作成され続ける限り、国全体の財政状態は「大体」でしか公表されないのだ。

3.個人ベース「国の貸借対照表」
 この問題を解決する方策のひとつが、『個人ベース「国の貸借対照表」』の作成である。これは、財務運営を個人目線に向けたものであり、「ステイクホルダーひとりあたりの資産額および負債額の公表」を目的とするものである。
 「資産額および負債額の公表」を行うということは、ステイクホルダーから見た場合、「国の財布の中身を身近なものとして把握できる」点が重要である。現行の「国の貸借対照表」では、金額が大きいため金銭感覚の麻痺を起こす可能性が高い。莫大な金額を見ることで満腹中枢が刺激され、それだけで満足感を覚えてしまうため、「数字の公表」のみの対応にごまかされやすい。これを回避するために個人ベースに置き換える必要性があるといえる 。

表1は平成13年度と平成14年度、文部科学省省庁別財務書類より算出した「国の貸借対照表」におけるステイクホルダーひとりあたりの資産および負債額である。

hyo1.jpg

また、表2は表1から算出したステイクホルダーひとりあたりの年間負債額である。

hyo2.jpg

4.「国の貸借対照表」の透明性を求めて
 『個人ベース「国の貸借対照表」』をよりよいものにするために、次のことを付け加えておかなければならない。そのキーワードが「使用単位」である。
財務書類と比較した場合、財務書類は単位が「百万円」であるのに対して、「国の貸借対照表」では単位が「兆円」である。「兆円」単位では以下数千億円という莫大な金額は不透明なまま残る。この問題を解決するためにも、『個人ベース「国の貸借対照表」』の単位を少なくとも「百万円」単位(更に可能ならば「円単位」)に改めることで、透明性が増し、更なるアカウンタビリティを果たすことができるのではないか。
(dark@xenos.jp)

<参考文献>
[1] 吉田寛「公会計の理論:税をコントロールする公会計」(2003)東洋経済新報社
[2] 太田昭和監査法人公会計本部編「公会計における貸借対照表の作り方:貸借対照表作成の理論と実務」(1999)大蔵財務協会
[3] 瓦田太賀四「公会計の基礎理論」(1996)清文社

<参考資料>
[1] 財政事業の説明手法に関する勉強会編「国の貸借対照表(試案)平成14年度版」(2004)
[2] 財政事業の説明手法に関する勉強会編「国の貸借対照表(試案)平成11年度版」(2001)
[3] 会田一雄・小西砂千夫・高木勇三・兵藤廣治・村山徳五郎・横山和夫「国の貸借対照表作成の基本的考え方」(2000)
[4] 総務省統計局推計人口データ、平成13年度・平成14年度


*学校法人黒川学園黒川速算塾講師(助手)、千葉商科大学現代GPプログラムRA。千葉商科大学商経学部卒業後、財団法人海洋生物環境研究所勤務を経て、現在に至る。専門は教育社会学、生涯学習学、商業教育学、学習支援論など。