◎福田 隆之(NPO法人政策過程研究機構 理事)
中央・地方政府の財政再建基本方針
政府の経済財政諮問会議が1月18日に「構造改革と経済財政の中期展望」の2005年度改訂版の案を公表しました。その中では、2011年度までの日本の経済情勢を2011年度に概ね名目成長率3.2%程度、名目金利は2011年度までに3.9%程度と見ています(基本ケース)。*
長期金利が上昇すると、政府の借金にかかる金利が上がるので財政的な負担も重くなるのですが、長期金利が上昇しているということは経済も成長しているはずなので、政府の税収が増えてある程度はカバーされるはずということになります。今の見通しですと、金利の上昇の方が若干高いですから、その分を支出の削減や増税でカバーしていくという方針でしょう。
この報告では、地方財政の推移も見ています。これを見ると地方の税収はやはり伸びていて、2005年度が34.7兆円なのが、2011年度には45.3兆円(基本ケース)ということになっています。地方政府も、基本的には中央政府の財政政策と同様の方向で債務の膨張を食い止めるということでしょう。
経済成長率の地域間格差
こう書くと「何が2010年問題なのか?」と思われるかもしれません。しかし地方の数字を「大枠」で見ていると、数字の落とし穴にはまってしまいかねません。実はこれを補強してくれる非常に有意義なレポートが出ています。野村證券金融経済研究所経済調査部が2005年12月5日に公表した「中期経済予測2006〜2010」の中で地域経済分析を詳細に行っています。** これによると、まずマクロ経済の見通しは政府のそれと大きく変わらず2010年まで概ね平均3.1%成長で、金利は政府よりも若干低めの平均2.2%で推移すると見ています。このあたりの予測についてはそんなに大きい乖離はないように思えます(政府の見通しの方が厳しめかもしれません)。
ここからが重要なポイントになるわけですが、野村證券の予測では国全体の成長率に対する各地域の乖離を推計しています。地域間の人口移動が1990年代以降のトレンドで推移することを前提に見た格差で、実質成長率しか出ていませんが、平均から上への乖離は東京圏で全国平均+1.2%ポイント、下への乖離では中国圏で−0.6%ポイント(いずれも2010年までに平均)という結果になっています(基本ケース)。この予測は過去の人口移動のトレンドを踏まえたものになっており、過去のトレンド以上に都市部への人口集中が加速すれば、もっと差が大きくなります。
一証券会社の予測ですので、具体的な数字をどこまで信じるかはともかく、鉱工業生産指数を始め、近年の各種統計を見ても経済全体のトレンドとして、このような経済成長の地域間格差が拡大する傾向があると思われます。では、これを傾向として正しいものと受入れた上で、これが何を意味するのかを考えてみましょう。
増える支払金利と増えない税収
まず、地域間で経済成長に格差が生じたとしても、日本国内で資金調達コストに差が開くということは起こりそうにありません。低成長の地域からは高成長の地域に資金が逃げますから、結果として高いところで金利が収斂するはずです。とすると、成長力の小さい地域では公債費の増大をカバーできるほどに税収が伸びないという問題が発生します。
ただし、現在の日本の地方財政制度は高成長地域も低成長地域も含めて地方全体の収入と支出が均衡するように国が補填する仕組み(地方交付税制度)になっています。ですから上述のように地方全体をマクロ的に見れば、調整されるように思えます。ただ、地域ごとの税収の伸びまでを正確に予測してお金を配分してくれるほど精緻に運用できるとは限りませんし、今後の地方債制度の改革の中で財政的に追い詰められた地方公共団体が交付税の裏付けのない債券(いわゆる不同意債)を発行する可能性もあります。それに東京都は既に交付税の不交付団体ですから、ここの税収が大きく伸びても、他の地域に大きく還元出来るわけではないでしょう(交付税の原資は増えますが)。
政策金融機関民営化の影響
以上のような問題から、これがジリジリと一部の都市部以外の地方公共団体の財政余力を奪っていく可能性があります。また、上記の交付税制度を死守したとしても、制度に守られた本体の会計の外側で必死に延命措置を講じてきた地方三公社や第三セクターなどが抱えている負債には、間違いなく火が付き、本体に波及するでしょう。
これが、地方公共団体の“2010年問題”の根本的な要因となります。
加えて、政府系金融機関の民営化問題も出てきます。日本政策投資銀行が2008年以降民営化されるとすれば、スキーム次第では普通の金融機関同様にいわゆるBIS規制の適用下に入る可能性もありますし、いずれにせよ収益性・健全性向上が求められるでしょう。その場合には、政投銀が支えてきた地方の公共セクター関連のプロジェクトで大幅な引当金の積み増しが求められる可能性があります。負担に耐えかねれば、損切りの動きにもなるでしょう。その場合には貸付や出資といった形で関与している地方公共団体もお付き合いする必要が出る可能性があります。
急がれる不良債権処理と財政再建
ここに書いた話はあくまでも可能性の議論です。当然ながら景気動向は不透明ですので、長期金利は予測ほどあがらない可能性もあります。仮に予測どおりの経済環境が到来しても、救済措置が講じられる可能性がゼロとは言えません。
ただ、既に多くの地方公共団体で財政体力の低下が著しい状況に至っています。このような状況では急激な経済環境の変化に対応できない可能性もあります。
重要なのは、問題が顕在化する前にどこまで不良債権処理や歳出圧縮の準備ができるか?という点でしょう。もはや中央政府も自らの財政再建のために地方にシワを寄せる時代に入りつつあり、客観的に見て中央政府の救済は望みにくい情勢です。官民問わず、不良債権処理とは手間もかかり、引き受けがたい苦痛を強いられる行いです。先送りにするのではなく、民間が10年にわたって苦労した経験を見据え、様々なノウハウが活用できる今こそ、当たり前のことですが、残されたわずかな時間を有効に活用する各地方公共団体の能動的な対応を期待したいと考えます。
(takayuki.fukuda@ppi.or.jp)
*構造改革と経済財政の中期展望―2005年度改定を参照。
**中期経済予測2006-2010を参照。
政策過程研究機構について、また活動実績についてはウェブサイトをご参照下さい
政策過程研究機構
*早稲田大学教育学部卒。NPO法人政策過程研究機構理事(運営統括担当)。専門は公共経営論、政策過程論
