盛り上がらない地方自治体の電子掲示板
2006年04月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎庄司昌彦(国際大学GLOCOM 助手)

地方自治体の電子掲示板

 地域の問題を住民同士の協力によって解決に導いたり、住民の知識を行政に活用したりするなど、情報技術を活用して行政への住民参加を促進するため、地方自治体が電子掲示板を設けることがある。このような取組みは一時期、全国に拡大したが、実態を見ると、いまひとつ盛り上がっていない。

実態調査

 筆者は、2003年7月と2005年7月に地方自治体の電子掲示板の運用状況について簡単な調査を行った。2003年の調査では、全国の都道府県と市・東京23区のウェブサイトで掲示板の設置状況を調査し、設置している地方自治体については一日あたりの平均発言数を算出した。算出は、掲示板(掲示板を複数設けている場合には最も活性化している掲示板を選択)の1ヵ月間の発言数から一日あたりの平均数を出すという方法で行った。

 その結果、調査対象となった119の地方自治体のうち91自治体(76%)では1日あたりの平均発言数が1未満であった。多くの自治体では設置した掲示板は、活発には利用されていなかったといえる。平均発言数が多かったのは、大阪府(1日平均20.6発言)、兵庫県明石市(17.4)、山形県鶴岡市(10.7)、東京都墨田区(8.5)、山口県防府市(4.3)等であった。

多くの自治体が閉鎖または低迷

 1回目の調査から2年後の2005年7月、筆者は2回目の調査で上位であった16自治体について、再度、一日あたりの平均発言数を算出するという調査を行った。すると対象16自治体中6自治体で掲示板の運用が終了し閉鎖されてしまっていた。また運用が続いていた残りの10自治体のうち8自治体では、前回に比べて平均発言数が減少し、時々一方的にイベントの告知が書き込まれるだけであったり話題を提起しているのに誰からも反応を得られないでいたりするなど、議論の活性度が著しく低下していた。

 2年前に比べて一日あたりの平均発言数が増加していた(活性化していた)のは三重県と藤沢市の2自治体のみであった。

 2年前に活発であった上位16自治体でこのように閉鎖や発言数の大幅な減少が趨勢であったということは、それ以外の地方自治体の掲示板も、同様の減少が起きていると推測される。

掲示板閉鎖の理由

 掲示板はなぜ閉鎖されたのか。いくつか事例を見てみよう。山口県防府市が運営していた「じょうほう掲示板」は、市の管理者が汚い表現や誹謗中傷をチェックして削除するという運用をしていたが、休日に書き込まれたものへの対応が遅れることが問題となり、また県内の他の自治体が運営していないことから閉鎖となった(木村一彦市議の調査による)。他の地方自治体でも、「荒らし」への対応が担当職員の過度な負担となって閉鎖したものが複数みられた。

 岐阜県高山市の場合は、市町村合併について議論するという明確な目的を持った期間限定の掲示板であった。2005年2月に周辺町村との合併が完了し、掲示板も廃止された。北海道の「赤レンガインターネット会議室」も、議論すべきテーマがあるときのみ期間限定で運用する掲示板であるが、活動している会議室(掲示板)がひとつもない状態が1年以上続くなど、実質的には閉鎖状態である。

 上記の事例などから、「荒らしへの対応等の運用上の課題」と、「目的達成や期間満了」が主な閉鎖の理由であることが分かった。だが、掲示板を目的や期間を限定して運用している自治体も、そうしているのは、結局、「荒らし」による無秩序化の防止であることが多いことを考えると、つまりは誹謗中傷等による場の「荒れ」が、行政担当者の負担となり、利用者離れを引き起こし、発言数の低迷や掲示板の閉鎖につながっているといえる。

成功事例から学べること

 では逆に、三重県「e−デモ会議室」と神奈川県藤沢市「藤沢市市民電子会議室」において前回よりも発言数が増加していた要因はどのようなところにあるのだろうか。

 三重県では、県が積極的な予算措置をするなど、初心者も参加しやすい運用や機能面の向上に力をかけていた。また藤沢市では、ユーザーによる「運営委員会」の組織など掲示板の運営を支えるオフラインの活動が活発であった。

 二つの事例からは、オフラインでの活動も含めて、掲示板という「場」を丹念に整備し、ユーザー同士の人間関係の構築支援に力を注ぐことが、発言数の増加や安定した運用につながっていたといえよう。特に新しい技術や変わった運用スキルを用いているわけではなく、手間をかけた地道な取組みが実を結んでいるのである。

 筆者は「e-democracyの現在」(『政策空間』vol.11)という文章で、鈴木謙介氏の議論を引きながら、ネットコミュニティにおいて「ストックな人間関係」を育てながらノウハウや知識を積み重ねることの重要性について述べた。今回の筆者の調査では、掲示板を閉鎖した自治体の運用状況までは明らかにできていないが、少なくとも成功事例は「『場の維持』や『人間関係の構築』のための取組みを行っていた。したがって、この観点から各事例を比較してみると、ネットコミュニティを盛り上げていくための知見を得ることができそうである。

SNSの可能性と課題

 最後に、最近、地方自治体で電子掲示板の運用にあたってきた人やこの分野の研究者等の間で関心が高まっているSNS(Social etworking Service)の可能性について簡単に述べておきたい。2004年12月に熊本県八代市が、市が運営する住民ポータルサイト「ごろっとやっちろ」にSNS機能を導入したことが注目を集め、このサービスを移植する地方自治体が出てきたり、総務省が実証実験に乗り出したりしている。

 SNSでは各自が自分のページを持ち、友人と互いにリンクしあい、互いの日記やブログの更新状況などを把握しコメントしあう。日ごろの動向を互いに知ることで、「文脈の共有」が促されているといえよう。またテーマごとのコミュニティを形成して掲示板コミュニケーションを行うこともできるが、発言者のプロフィールや友人関係などの情報を参照できるため匿名性が低い。このようにSNSは、「ストック」の人間関係に基づくコミュニケーションを支援する仕掛けだといえる。そしてユーザーに場への愛着や依存を深めさせることにも成功している。

 現在各地で増加している「地域SNS」は、電子掲示板が不得意であった部分を機能面で補い、また、各地の電子掲示板で積み重ねられた運営ノウハウを生かすことで、地方自治体のネットコミュニティに活気を取り戻すことができるかもしれない。

(shoji@glocom.ac.jp)

*1976年生まれ。2002年、中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。国際大学GLOCOM研究員として、情報社会学を柱に、さまざまな調査研究活動に従事。主な関心は「情報社会の政策形成過程」。共著に『情報アクセシビリティ やさしい情報社会へ向 けて』(NTT出版2005年)、『eデモクラシーシリーズ第3巻 コミュニティ』(日本経済評論社2005年)。

http://www.glocom.ac.jp/users/shoji/