「公」と「官」について―「官から民へ」に伴う罠を回避するための一つの提案(3)―
2006年05月11日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎佐藤 創一(内閣官房)

公共性の度合いについて−その2

今回は、前回の議論に引き続き、「公・私」と「官・民」の概念軸を分離することによって浮かび上がってくることについての議論を進めたい。前回の議論では「公−官」、「私−民」の対応関係は必然ではないことを示すとともに、「公」と「私」の間には無数の中間領域が存在すると考えられることについて指摘した。今回は議論の焦点を「官から民へ」に戻し、これまでの議論が「官から民へ」の動きに関してどういう示唆を与えるかを考えてみたい。

「官から民へ」という言葉は、その字面を見ても分かるように、事業の担い手のみの議論をしているのであって、それ自体としては「公・私」の概念軸は視野に入れていない。しかし、「官から民へ」の動きに伴って制度変更がなされた場合、それを契機に当該事業の公共性の度合いが変化する可能性については視野に入れなくてはならないだろう。これまでの議論でずっと前提としてきたことであるが、「公・私」の概念軸と「官・民」の概念軸は直接的には無関係であり、「官から民へ」の動きに伴って必然的に「私」の性格が強まるというわけではない。ただ、この動きにはそれに附随して制度変更を伴うことがあり、その制度変更自体が事務事業の公私の色合いを左右する可能性については常に注意する必要があるということである。

例えば、市場化テストを例に考えてみよう。この市場化テストは、「官」がこれまで行ってきた公共サービスについて新たに官民競争入札を実施し、価格と質の面でより優れたサービスを提供することができる主体が当該公共サービスを提供することとするものであり、中央省庁では既に昨年度からモデル事業としてハローワークや刑務所関連の一部業務が民間委託されるとともに、今国会に「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(公共サービス改革法)案」が提出され、まさに本格的導入がなされようとされているところである(本年4月1日現在)。この法律案の成立・施行前である現段階では市場化テストはあくまでモデル事業としての位置付けであり、現在のところは単純な一部事業の民間委託という形で行われているのだが、この市場化テストが本格的に導入された場合、個別事業の実施形態が変更されることになる可能性がある。例えば、現在行われているハローワーク関連のモデル事業では、セミナーの実施などについて限定的に民間委託されているに過ぎないのだが、制度の本格的実施によってハローワークの運営が包括的に委託される形となれば、それに伴って事業の運営方式が変化することは十分に考えられ、場合によっては公益性が損なわれる方向で事業の性格が変化するという事態にもなりかねない。あるいは逆に、この動きに伴って事業の見直しが行われ、より地域社会の実情に即した形で行われるようになれば、却って事業の公益性は増すことになるかもしれない。要するにここで重要なのは、「官から民へ」に象徴される表面的な動きに惑わされることなく、その背後にあるより重要な問題−すなわち、事業の公益性はどう変化するのか−に目を向けなければならないということである。これを怠った場合、表面上の動きに惑わされて公共性の喪失という大いなる罠にはまってしまうことにもなりかねないのである。

さて、今回は紙幅の関係で以上までとしたいが、次回(最終回)では、さらに議論を「公・私」の軸から「官・民」の軸へ広げるとともに、これまでの議論の総括をしてみることとしたい。