グローバル化と公共政策 ―革新的なアプローチが不可欠―
2006年10月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎清水美香(民間研究所 研究員)

公共政策を取り巻く構造変化

「公共政策」は、政府が実施するものという見方が多い。しかし、公共政策に政府が何らかの形で関わることには違いないが、必ずしも既存の政府組織の形態を中心に実施されるものとは限らない。特に、益々深く且つ複雑な形で進む「実態としての」グローバル化に伴う、公共政策を取り巻く大きな構造的な変化は、公共政策の実施の在り方を考える上では見逃せない。その変化を軽視することは、21世紀のグローバル社会を生き抜くための視座の1つを見失うことにもなりかねないといっても、過言ではないだろう。なぜなら、この点を重視するか否かによって、公共政策を実施する方法が全く異なってくるからである。政策の問題解決に向けた革新的なアプローチの導入の是非が、ここに関わってくるからである。
その構造的変化は、2つの視点から捉えることができる。第一に、実態としてのグローバル化が進む中で、既存の政策決定機関だけでは、事実上、効果的な政策を体系化するための政策上のオペレーション、特に必要な情報の範囲、速度、接点が欠如する傾向にある。この結果、民間セクターがこうした変化に対応するために、公共政策に広範囲に且つ深く関与しはじめている。

第二に、グローバル化に伴う構造的変化は、公共政策の領域が単に1つの国家や1つの地域枠を超える傾向にあるという点だけに留まらない。官と民の両セクターが、これまでより遥かに複雑に関わるようになっている。さらには、様々な異なるセクターや、異なるイシューが、縦横両方向に、想像されるより遥かに複雑に入り組む傾向にある点を、しっかり捉えておく必要がある。

革新的アプローチの必要性

こうした構造的変化を踏まえれば、個別イッシューごとに、既存の組織や関係者間で決定された政策を、従来どおりの形態で実施するといったアプローチを介するだけでは、今後、問題解決型の政策を展開していくことは難しくなるだろう。グローバル化に伴う構造的変化に注視すれば、特に、@既存の省庁間、セクター間、組織間、さらに専門家間の壁をなるべく低くする仕組みをつくる、A客観的情報・ナレッジを迅速に、広範囲に収集し、それらを体系化し、B如何に政策を問題解決型の方向に進めるかという観点から、我々が持つ限りあるリソース(人・資金を含む)を効率よく使うための手法を考える上で、革新的なアプローチを取っていくことが、必要不可欠になるだろう。

こうした革新的なアプローチの例は、私の現在の拠点である米国では、幾つも目にすることができる。例えば、あるノンプロフィット・シンクタンクの研究者は、自分の専門分野に近いプロジェクトに従事するだけではなく、シンクタンク全体の中で動く個別政策プロジェクトに、自分の意思で選択して参画している。例えば、化学研究者であったとしても、教育プロジェクトや、安全保障プロジェクトに、他の異なる専門家と共に参画し、一緒に大プロジェクトを動かしていく。文字通り専門領域の垣根を取り払い、如何に問題を解決していくかという視点を重視したアプローチが存在する。

また、連邦政府科学技術の研究開発(R&D)のある分野では、通常見られるスタイルの産学共同研究ではなく、ノンプロフィット組織を別途組織づくり、その運営を大学が行い、その組織メンバーに、多数の異なる民間研究機関が集積し、それぞれの研究機関が、組織の垣根を越えた形で個別プロジェクトに参画し、R&Dを実施していくという例もある。

このような例をみると、ノンプロフィット組織は、公共政策に関わる構造的変化を反映した、公共政策の実施方法を考える上でも、1つのキーワードになるかもしれない。いずれにしろ、グローバル化に伴う公共政策の構造的変化の真髄を捉えた上で、革新的なアプローチを常に念頭に入れていくことが、今後必要不可欠となるだろう。これを視野に入れながら、先ずは個人のレベルから、公共政策の実施の在り方を考えたい。必ずしも何か新しい大きな変革をすることではなく、少しずつ、既存の政府組織や、企業組織の中からも、その組織の1つの部署からも、あるいは個人としてその組織の外からも、あらゆるレベルにおいて、こうした視点を持ちながら行動していきたい。