公立高等学校の教育課程編成・実施について―教育法制度運用の視点から―

2007年05月14日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎金子 弘(日本郵政公社非常勤職員)

学習指導要領は、全国的に一定の教育水準を担保し、実質的な教育の機会均等を保障するために学校が編成する教育課程の最低基準として設けられている。学校教育法に基づいて作成され、法的拘束力を有する。一方で、最低基準さえ満すならば、残る部分については各学校が創意工夫を凝らして教育課程を編成・実施することができるようにもなっている。要するに、教育課程はナショナルミニマムとローカルオプティマムの二層構造を基礎に設計されている。

平成15年12月には、中央教育審議会答申「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」(平成15年10月)を踏まえて、教育課程基準の一層の明確化が図られるようになった。

しかし、平成18年の初秋以降、富山県の県立高等学校で必履修科目の未履修が発覚したことに端を発して、全国規模で必履修科目の未履修が社会問題となる。文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室「中央教育審議会初等中等教育分科会(第45回)・教育課程部会(第3期35回)合同会議議事録・配付資料 4.配布資料 資料2 高等学校における必履修科目の未履修について」(平成18年12月22日)によると、2006年11月20日現在、公立高等学校における未履修の校数は371校(9.2%)、生徒数は60,988人(7.5%)にも上っている。

こうしたことから、地方教育行政においては、教育政策法務能力が欠如していることを起因として、高等学校の教育課程編成・実施に関する教育法制度の適切な運用に拠った行政運営が行われていないのではないかと考えられる。

以下では、より詳細にその実態を検討してゆく。

第165回国会衆議院文部科学委員会議録第4号(平成18年11月8日)における当時の文部科学省初等中等教育局長の発言から、広島県と兵庫県は過去に未履修問題が生じ、文部科学省から指導を受けたにも関わらず、今回再び未履修問題を生じさせていることが明らかになっている。さらに、過去に4県(長崎県、熊本県、広島県、兵庫県)で未履修問題が生じた際に、各都道府県教育委員会に対して「一部の県でこういった不適切な事例があったことを示した上で、各県におかれても適切な教育課程の編成、実施がなされるように指導を行った」ことを明らかにしている。

また、文部科学事務次官名通知「小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について」(平成15年12月26日、15文科初第923号)の「3(1)ア」において「各学校においては、(中略)教育課程を適切に実施するために必要な指導時間を確保するよう努める必要がある」と示されているにも関わらず、文部科学省初等中等教育局教育課程課「高等学校の必履修教科・科目の未履修の開始年度等について」(平成18年12月13日)によると、平成15年度から170校(45.8%)が未履修を開始している。

内閣官房教育再生会議担当室「第1回学校再生分科会 第1回規範意識・家族・地域教育再生分科会議事録」(平成18年11月8日)において、小野元之・第1分科会副主査は「今回、学習指導要領で35単位の必修を31単位に減らしたわけです。その上で、なおこんなに未履修の問題が起きているということは、私はやはり教育界がたるんでいると言われても仕方がないと思います」と述べている。

これらのことから、まず第一に地方教育行政の「執行姿勢」に不適切な面があることが確認される。
次に地方教育行政の「管理運営体制」についてみてゆく。

前出の第165回国会衆議院文部科学委員会議における当時の文部科学省初等中等教育局長の発言から、未履修のあった公立高等学校では、学校が教育委員会へ届け出ていた教育課程表が実際のものとは異なり、偽りだったことが明らかになっている。

また、全国都道府県教育長協議会第1部会「「学習指導要領の一部改正等」の内容に関する取組について」(平成17年3月)によると、都道府県教育委員会による都道府県立学校への「学習指導要領の一部改正通知の周知徹底」は36県(80.0%)、「各教科等の授業時数の確認」は28県(62.2%)となっている。さらに、都道府県教育委員会が、都道府県立学校の授業時数の「把握のための調査を実施している(する予定である)」件数は35県(74.5%)にとどまり、このうち@「各学年の総授業時数を把握している」は28県(80.0%)、A「各教科等の年間を通しての授業時数を把握している」は16県(45.7%)、B「各教科等の週ごとの授業時数を把握している」は5県(14.3%)、C「各教科等の学期ごとの授業時数を把握している」は0県、D「各教科等の月ごとの授業時数を把握している」は0県となっている。

以上から、地方教育行政の「管理運営体制」にも、問題があるといえる。

第三に「教育法制度の運用」面をみてゆく。

文部科学事務次官名通知「小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について」(平成15年12月26日、15文科初第923号)の「3(1)ア」においては、「各学校においては、(中略)年間の行事予定や各教科の年間指導計画等について、保護者や地域住民等に対して積極的に情報提供を進める必要がある」とされ、また「3(1)イ」においては「学校教育法施行規則に定める各教科等の年間授業時数の標準を上回る適切な指導時間を確保するよう配慮すること」と示されている。

しかし、文部科学省初等中等教育局学校評価室「学校評価及び情報提供の実施状況(平成17年度間調査結果)」(平成19年3月28日)によるとシラバス形式の情報提供を行っている公立学校は17.2%(7,396校)に留まっている。

また、おなじく教育課程課教育課程企画室「中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(第14回)及び教育課程企画特別部会(第4回)配布資料 4.配布資料 資料5-2 平成16年度公立高等学校教育課程編成・実施状況の調査の結果について」(2004年11月8日)によると、授業時数・日数の充実に向けた取組として、@「授業の1単位時間の弾力的な運用」は調査対象の普通科高校の15.1%、A「週授業時数の変更による授業可能時数増」は19.1%、B「長期休業期間の変更による授業可能日数増」は19.4%が行っているにすぎない。さらに、全日制普通科におけるシラバスの作成状況は「全教科等で作成」が61.0%、「一部の教科等で作成」が16.1%となっている。

以上のことから、地方教育行政において、教育政策法務能力が欠如していることを起因として、高等学校の教育課程編成・実施に関する教育法制度の適切な運用に拠った行政運営が行われていないといえる。

教育課程はナショナルミニマムとローカルオプティマムの二層構造で考えられているが、この考え方を実効性あるものとするとともに、高等学校教育の質を担保するためには、地方教育行政において、教育政策法務能力の養成が必須であるといえる。

参考文献

•樋口修資編著(2007)「教育行財政概説―現代公教育制度の構造と課題―」、明星大学出版部、255〜300頁。