行政改革に尽力した公務員の遇し方
2007年05月14日 00:00 : Comments (4) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎小島卓弥(フューチャーアーキテクト株式会社 経営企画室/株式会社アセンディアコンサルティング 事業部)

はじめに

新年度を迎え、日頃交流のある自治体職員から異動の挨拶をいただく季節となった。こういった挨拶をみていつも思うのは、行政改革に尽力しその改革が成功し、世間からの評判が高ければ高いほど、それを担当した職員が左遷されるケースが多いという現実である。

むろん、ゼネラリスト育成を旨とする自治体職員の異動プロセスにおいては、どのポジションであっても「左遷」という言葉は建前上存在しないのだろうが、誰の目からみても露骨に左遷と思わせる異動が行革セクションの担当者に頻発することは、成果主義が定着しつつある民間企業からみると奇異に映る。
そこで、本稿では行政改革に尽力した職員がなぜ「左遷」されるのか、そしてそれによる影響に関して、行政改革部門とおつきあいすることが多い外部の1コンサルタントの視点から考察してみたい。

役所の中の行政改革

世間一般において「行政改革」とは「積極的に実施すべきもの」であり、その成果は前向きに評価されるものである。他方で、役所の内部では必要だとは思っているものの「忌むべきもの」として扱われているのではないだろうか。これは、公務員制度そのものが為政者の交代等により発生する急激な変化による悪影響を最小限に食い止めるための「社会の安全/安定装置」としての側面を持っているからであり、そもそも変化を嫌う体質を持っている為、やむを得ない部分がある。

他方で、社会全体は刻々と変化し、自治体に対して政策的なニーズも常に変化していく。加えて、組織の経営/管理手法も新しいものが開発される中で「社会全体の安全装置」である自治体にも変化が求められることになり、これが行政改革の発火点となる。

しかしながら、「社会の安全/安定装置」が自ら発意して自己変革するというのは難しく、結果として行政改革は強いリーダーシップを持った首長、もしくは審議会等の外部委員からの外圧がトリガーとなるケースが圧倒的に多くなる。とは言え、改革を実行に移すに当たり外部の人間だけでは実現することは不可能であり、実践部隊として内部の職員がアサインされる事になる。

実際に行政改革を実施するにあたっては、制度的にも職員の心情的にも変化が嫌われるがゆえに、膨大な調整(説得や根回しとも言われる)や場合によっては法令等の改正やシステムの導入などのプロセスを経て改革が実現する訳だが、その経過において改革を担当する職員に対しての反発や批判的な心情が注がれるケースも少なくない。

その一方で、行政改革の成功事例は対外的に広く紹介されることがある。これは、首長などが自らの実績を発表したり、他自治体からの要請、改革をサポートしたコンサルタントやITベンダー等の宣伝などによる。この課程の中で、行革を担当した職員がセミナー等に呼ばれ「スター公務員」となるケースも少なくない。

スター公務員の栄光と挫折

かくして、スター公務員として脚光を浴びる担当者は行政改革手法の伝道師となり、他の自治体がより平易に行革手法を導入する事を可能にする。また、その状況を視察するために全国の自治体職員、議員などが当該自治体を訪れるようになる。これによる自治体の知名度向上や地域への経済波及効果(宿泊費やお土産、食事代等)も決して小さなものとはいえない。この功績を考えればスター公務員はいくら厚遇されてもおかしくはない。

しかし、多くの場合スター公務員はこの後の人事異動で左遷される事が多い。もちろん職位が下がる訳ではないが、一方で本庁の中枢部門で活躍した担当者が全く畑違いの機関に異動となる。この場合、移動前に手がけた行革手法を援用できる様なケースは少なく、同時に蓄積した行革ノウハウや他自治体とのコネクションも埋没していくことになる。

行政改革に尽力した公務員の遇し方

しかし、この遇し方は適切と言うことができるのだろうか?行政改革ははっきり言って非常に辛い。民間企業の様に解雇にまで踏み込む訳ではないが、改革の推進にあたっては外部からサポートしているコンサルタントですら被改革部門の職員から冷たい視線に曝される。まして況や、内部で実際に調整を担当する職員の立場たるやいかばかりかである。

この膨大な苦労の末、行政改革が成功し、自らの所属自治体のプレゼンスを大幅に向上させ、場合によっては地域経済にまでプラスの影響を引き出した担当者を「ゼネラリスト育成」の名の下に左遷するのはいかがなものだろうか?この様な遇し方では、後に続いく行政改革の実践候補生も自らの将来を悲観し、消極的な取り組みに終始し、結果として新たなる行政改革の実現は難しくなってしまう。

また、行政改革を実現させた担当者は内部での調整の仕方、他自治体や外部とのコネクション等を身につけた実務上におけるスーパー公務員にもなっている。彼らを積極的に活用していくことは「行政改革の実現」の波及効果を、人的リソースの有効活用と言う視点から拡大していくチャンスなのではないだろうか。

最後に

この様に、行政改革に尽力した公務員の処遇は「ゼネラリスト育成」の御旗の下、適切な運用がなされていないと想定されるケースが意外なほど多い。しかしながら、行政改革に尽力した公務員は多くのノウハウと外部とのコネクションを構築した有為な人材であり、積極的に活用していくべきである。

その際最も重要なポイントは首長のサポートである。既述の様に行政改革は首長などの発意からスタートするケースが多い。また、改革の波及効果の一つである「他自治体等からの評価」は結果として首長の功績に帰する。であればこそ、行政改革の担当者として抜擢した職員を実施面でサポートすると共に、成功した暁には少なくとも「左遷」と思われないポストに処遇することが必要である。さもなくば、行政改革の実現に「体を張る」職員は激減し、結果として首長の政策実現力が低下する形で跳ね返って来るだろう。

古来、人材の評価ほど難しいものはなく、成果主義に基づく論功行賞は民間企業ですら使いこなせているとは言い難い。しかし、功績に罰を持って遇する組織が発展するとは思えない。実際に行政改革が単発では成功しても体系的に発展しないのはこの辺に原因の一端がある気がしてならない。憂慮すべき状況ではないだろうか?