「政府転覆」の解読法―“政治運動家“外山恒一―
2007年05月14日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎笠本広太郎(フリーライター)

ネットには重きを置かず

「もはや政府転覆しかない!」。4月8日に投開票された東京都知事選に立候補し、1万5000票余を獲得した外山恒一氏(36)の政見放送は、インターネット上で大きな注目を浴びた。動画投稿サイト「ユーチューブ」が持つ世論への影響力が証明された先駆的な例となった一方、中指を突き立てるなどのパフォーマンスなどから、既存メディアの多くが外山氏を「選挙で売名行為をする泡沫候補」「奇人変人」扱いしており、その思想や運動の中身はほとんど紹介されていない。

しかし、外山氏のサイトや文章を素直に読んでいくと、現代社会の潮流を踏まえた政治思想の持ち主で、その政治思想を普及させるための方法論を具体的に提示しているという意外な事実が浮かび上がってくる。結論から言うと、外山氏の思想の方向性は基本的には「反グローバリズム」であり、宮崎学氏、福田和也氏、三浦展氏、小林よしのり氏といった著名な言論人と近いものがある。共同体崩壊への強い危機感を持ち、天皇制を肯定し、既存の右翼や左翼の欠点を厳しく指摘しているのが外山氏の本来の姿であり、政見放送のイメージに惑わされてはいけない。

都知事選に絡み、「ネットと選挙」の関係に焦点を当てた論評も目立っているが、外山氏は取材に対し「ネットはもともとあまり信用していなかった。正直(政見放送の)ここまでの反響は予想できなかった」と明かしている。インターネットには、最低限の“思想伝達手段”としての役割しか期待しておらず、あくまで現実世界で政治運動を展開することが外山氏の目的なのである。

「政府転覆」の理由

外山氏の公式サイト「ファシズムへの誘惑」(http://www.warewaredan.com/)には、氏の文章が大量に掲載されている。外山氏は現在の日本が、「社会PoliticallyCorrect(「言葉狩り」「左翼の掲げる正義」と説明)化を推進する左翼勢力と、個人を監視・管理するためのハイテクを獲得した国家権力とが結託している」との認識に立ち、この結託による「新しいスターリニズム体制」の実現に抵抗しなければならない、そのためには右翼勢力と連帯した「ファシズム」で対抗する必要がある―と訴えている。

なぜ、「もはや政府転覆しかない!」と叫んだのか。外山氏はこの「新しいスターリニズム体制」に対抗できる唯一の手段を「政府転覆」と考えたからである。

外山氏は、現代日本を「男女平等」「犯罪者の人権擁護」を声高に叫ぶ勢力と、国家権力が団結した“息苦しく、自由が抑圧された”状態と認識し、「『1984年』のジョージ・オーウェルが予見した暗黒の未来社会のイメージをさらに洗練させたものに他ならない」としている。これは、現代社会を管理監視が強化され、異端者を徹底的に排除した「デオドラントな社会」と批判する宮崎学氏とほぼ同じ見方だといえるし、大型ショッピングモールが地方都市を壊滅させていると指摘する三浦展氏の『ファスト風土化する日本』(洋泉社新書)にも通じる視点である。

なぜ支持されたのか?

外山氏は「資本主義は、伝統的な共同体を破壊し、諸個人をバラバラにする」「グローバル資本主義、グローバル民主主義はファシストの敵である」と断言している。俗に言う「市場原理主義」、国内でいうところの「小泉・竹中路線」を批判しているのである。

外山氏はなぜネットユーザーを中心とした若者に支持されたのか。その理由の一つが、既存政党や政治勢力の無力化にあることは容易に想像できるし、「反グローバリズム」の中にもヒントを見つけ出すことができる。

三浦展氏が言う「下流」に区分された若者の間には、グローバル資本主義に侵された社会への不満が鬱積している。だが、弱者救済を叫ぶ政党や政治勢力は、彼らの意見を吸い上げることができない。そして、彼らは既存政党、政治勢力への根深い不信感を持っており、選挙に行っても、自分たちの不満を吸い上げてくれる候補者や政党が存在しない―そんな絶望的な状況の中に、外山氏が突然登場したのである。これまで活字中心の2次元世界で展開されてきた「反グローバリズム」が、目に見える形で3次元の世界に降りてきた希有な例かもしれない。

“政治運動家”の登場

「最近はちょっとした反体制運動、ビラまきでもすぐに逮捕されてしまう。選挙は言論の自由が残された唯一の機会だ」。外山氏は街頭で力説していたが、日本は今のところ、外山氏のような人物にも言論活動を認めている。

だが東大名誉教授の坂野潤治氏は『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書)で、戦前の日本には相当程度の言論の自由があって、この自由が奪われたがために軍部の無謀な戦争計画を国民は知らされていなかったとする「戦後神話」が虚構である点を指摘。その上で、民主主義と戦争の「危ない関係」にも言及しているのだが、驚くべきことに外山氏もサイト上で「民主主義はそもそも国家権力の拡大を結果しやすい傾きがある」(原文のまま)などと、同様の見解を述べている。

外山氏は、多くの知識人と共有可能なバランスの良い“学習”を行い、確信犯的に選挙に出馬している。「得体の知れない魅力」があるのは当然で、ネット上を騒がせた「一発屋」ではない。“政治運動家”と理解するべきである。

外山氏の今後

「私の目標は政府転覆です。しかし、そのための拠点を首都中枢に置いたりするのは革命運動としては愚の骨頂で、拠点はやはり政府権力の弱い、地方に置いておく必要があります」。外山氏はサイト上で、九州を拠点にした運動の意味に触れているが、この1文などは外山氏の“本気さ”を示す例かもしれない。「農村が都市を包囲する」という独自の方法で中国を手中に収めた毛沢東を彷彿とさせるというのは言い過ぎだが、政治運動を一過性のものにしたくないという強い意志が感じられる。

「私は『伝統的共同体』の再建という課題を右翼と共有している」「日本国憲法を廃棄して、自前の軍備を増強するべし」。これらはサイト内の文章の一部だが、圧倒的な知名度を獲得した外山氏だけに、今後は「反グローバリズム」の“保守”論客との連携も現実味を帯びてくる。また、「下流」層の幅広い支持を得るかもしれない。外山氏の今後から目が離せない。