パラサイト国家日本

2007年07月16日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎杉田米行(大阪外国語大学アメリカ講座准教授)

4月末の日米首脳会談で、安倍晋三首相はジョージ・ブッシュ大統領に、「かけがえのない同盟」を強化する旨を伝えた。5月には早くも米軍再編推進特別措置法が成立し、日米軍事同盟は益々強化される様相を見せている。

冷戦終結までの約半世紀の間に、日本人には米国から離れたくても離れられないような精神構造が出来上がっていた。日米安全保障条約は、規定によれば、一年の告知期間で解消できる。しかし、自立の可能性を真剣に検討しなかったのは、同盟堅持が日本の国益にプラスだという計算に基づいた論理的判断というよりも、単に「その方が楽だから」という惰性によるものだったといえる。

社会学者の山田昌弘は1000万人ともいわれる「学卒後もなお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」を「パラサイト・シングル」と呼んだ。同じく、将来を展望し自立への強い意志を持たず、何となく米国に依存することが経済的にも軍事的にも国益にかなっていると信じる現在の日本は、「パラサイト国家」と呼ぶにふさわしい。

冷戦後、アジア太平洋地域は国際政治における新たな方向性を模索するようになり、一時期ではあるが、日本にも安全保障面で自立的な動きが見られた。

1994年8月、総理大臣の私的諮問機関である防衛問題懇談会が作成した報告書は、「米国はかつてのような圧倒的優位はもはや持っていない」という前提に立ち、日米安全保障体制を中心軸としながらも、「今後は、(日本が)能動的な秩序形成者として行動すべきである」と主張した。ここでは、まさに日本の積極的・自立的貢献が重視されたのである。

さらに2002年9月には、小泉純一郎首相が北朝鮮の金正日総書記と初の日朝首脳会談を行い平壌宣言に調印した。小泉訪朝は不安定な朝鮮半島情勢を好転させ、日本が国際政治上、独自の立場を打ち出す意図を明確にした。小泉首相がこの会談に臨んだのは勇気ある決断であり、半世紀にわたる日本の対米追随外交路線の変更を模索する第一歩であった。

だが、米国は日本が独自の外交路線をとることを嫌い、北朝鮮の脅威を誇張することで日本の自立傾向を封じ込めると同時に、東アジアにおける米軍のプレゼンスを確実なものにした。9・11テロの後、単独行動や軍事的解決をより重視するようになった米国は、同盟国に対し対テロ戦争への態度明確化を迫り、その証拠を具体的行動で示すよう求めた。ここにおいて、日本は自立への道を捨て、対米従属路線に戻ることを選択した。

なぜ自らがテロリストの標的になるのか、と自問することのない米国は、最強の軍事力を背景に、他国への軍事介入を正当化できる先制攻撃論を主張する。21世紀のアジア太平洋地域における平和構築にとって、日本がこのような米国のパラサイト国家でい続けることが望ましいことだろうか。これは歴史を振り返りながら再検討すべき課題である。
(gaidai[at]sugita.us )

*1962年大阪生まれ。ウィスコンシン大学マディソン校修了(Ph.D.)。大阪外国語大学アメリカ講座准教授。専攻はアメリカ外交。単著に “Pitfall or Panacea: The Irony of US Power in Occupied Japan 1945-1952” New York: Routledge, 2003 (『ヘゲモニーの逆説:アジア太平洋戦争と米国の東アジア政策、1941年―1952年』、世界思想社、1999年)。共著にMark E. Caprio and Yoneyuki Sugita eds., “Democracy in Occupied Japan: The U.S. occupation and Japanese politics and society_” New York: Routledge, 2007、他多数。