学校評議員制度の運用について
2007年07月16日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎金子 弘(日本郵政公社非常勤職員)

1.緒言
開かれた学校づくりを推進するひとつの方策として、平成12年1月に学校教育法施行規則の一部改正が行われ、学校評議員制度が創設された。本稿では、教育行政の法律主義[1]という考え方に立って、学校評議員制度が真に当初の目的を達しているのかどうか、達していないとすればそれは何故か、を考察してゆく。

2.学校評議員制度創設の趣旨
学校評議員制度は、学校外の者を委員として委嘱し、学校運営について幅広く意見を求める制度である。その創設趣旨は「開かれた学校づくりを一層推進していくため、保護者や地域住民等の意向を把握・反映し、その協力を得るとともに、学校運営の状況等を周知するなど学校としての説明責任を果たしていく」ことであるとされる[2]。これは、平成10年の中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」を踏まえたものであるが、次に、この趣旨に照らして、学校評議員制度の運用実態について検討して行きたい。

3.学校評議員制度の運用実態
(1)説明責任
社団法人日本PTA全国協議会による保護者の意識調査によれば、学校評議員制度の導入状況について、「わからない」との回答が70.8%にも上っている[3]。また、山口県教育委員会による学校側の調査[4]でも、学校評議員制度の周知を特に行っていない学校が43.0%(262校)となっており、保護者等に対して学校評議員制度そのものの周知が徹底されていないことが明らかになっている。

一方で、評議員からのフィードバックの面に関して、広島県の調査[5]では、全学校のうち15校(14.3%)が評議員から出された意見を保護者へ提供していないと回答している。また、評議員から出された意見及びそれに対する学校の対応状況について、22.5%の保護者が「全く知らされていない」と答えたデータもある[6]。

さらに、情報公開の点からは、評議員の業務記録や実施記録に関して「教育委員会の指導に基づき、規定様式に記録累積をして情報公開に耐えられるものにしている」としているのは、市町村立小中学校で13.3%、県立学校では0%に留まっている自治体もあった [7]。

地方教育行政は、学校の設置者として、開かれた学校づくりを推進する上で、学校の管理運営の状況を保護者等に周知しなければならない。しかし、いくつかの地方公共団体による調査を元にすると、そのような説明責任を果たせていない地方教育行政の姿が垣間見える。これは前出の中央教育審議会答申や文部事務次官通知において示されている政策方針を適切に受け止めていないということに他ならず、一部の地方教育行政機関に教育政策法務能力[8]が欠如していることの証左であるといえる。

(2)運用の成果
次に、制度運用の成果はどうだろうか。前出の広島県による調査では、学校評議員制度の実施による成果として「開かれた学校づくりを推進することができた」とした県立学校側の回答は22.9%(24校)、評議員側の回答は32.5%(27校)に留まっている。

また、静岡市では、学校が評議員に対して、学校経営(教育目標、方針、計画、課題)に関する意見を求めたのは93.8%(135校)に上っているが、このうち学校経営(教育目標、方針、計画、課題)の活性化につながったのは69.6%(94校)に留まっているとの回答がある[9]。

さらに、全国連合小学校長会による調査[10]によると、校長は学校運営の改善に対する認識が低く(18.3%)、学校評議員制度の活用を学校経営上の重要課題と受け止めているのは、18.6%に過ぎない。
以上から、一部の地方教育行政における現在の学校評議員制度には、制度創設の趣旨を適切に受け止めた運営が行われていない実態があるといえる。

4.結言
以上のことから、一部の地方教育行政においては教育政策法務能力が欠如しており、学校評議員制度に関する教育法制度の適切な運用に拠った行政運営が行われていない現状がある。

この背景には、前出の中央教育審議会答申において示されているように、指導等において「教育水準の維持向上を図り、あるいは、学校の管理運営の適正を確保するとの観点からその運用が強めに行われてきたこと」が、教育行政の自主性・自律性を失わせて来たこと。また、衆議院文部科学委員会[11]において、当時の文部科学大臣が、地方教育行政の行政運営における責任逃れの常套手段の存在を指摘しているように、不適切な行政運営の体質が一部の地方教育行政において存在していること。さらに、地方教育行政官に就任するにあたり、公的に一定水準の「教育行政に関する専門性」を保証する仕組みがないこと、これらが関係しているものと考える。

よって、文部科学省は教育政策法務能力の向上のための方策を全国どこの地方教育行政官であっても、ある一定水準の「教育行政に関する専門性」を担保するという考え方に立って、@教育政策法務能力の育成を目的とした専門職大学院を設置するとともに、A国家資格試験(弁護士や医師)のような仕組みを創設する、等を講じるべきであると考える。

<脚注>
[1]各地方で行われる教育は全体として国の教育を構成しており、法令の規定及び立法の趣旨に基づいて行政が運営されなければならない、との規範概念。
[2]文部事務次官通知「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成12年1月21日、文教地第244号)
[3]「平成16年度学校教育改革についての保護者の意識調査結果(概要)」
[4]「開かれた学校づくりをめざして―学校評議員の効果的活用に向けて―」(平成16年3月)
[5]「平成17年度学校評議員の活動状況(県立学校105校の状況)」
[6]社団法人東京都小学校PTA協議会「公立学校での義務教育への期待に関する保護者の意識調査<最終報告>」(平成16年5月)
[7]福島県教育センター「平成15年度学校評議員制度設置に関する調査結果」(2004年1月)
[8]文部科学省の教育政策の方向性、法令改正の趣旨を十分に踏まえて、教育政策を実現する手段として、教育法制度を適切に運用するとともに、ローカル・オプティマムを達成するための教育政策の企画立案及びその企画立案した教育政策を円滑に推進することができる力量のこと。
[9]静岡市教育委員会「平成16年度学校評議員実施状況」
[10]「平成18年度研究紀要」(平成19年2月)
[11]第165回国会衆議院文部科学委員会議録第5号平成18年11月15日

<参考文献>
・樋口修資 編著(2007)「教育行財政概説―現代公教育制度の構造と課題―」、明星大学出版部。
・玉井康之 著「生涯学習社会における学校評議員制度の意義と学校評価の観点」、『北海道生涯学習研究 北海道教育大学生涯学習教育研究センター紀要第2号』、北海道教育大学生涯学習教育研究センター、2002年3月、169-175頁。
・喜多明人 編著(2004)「現代学校改革と子どもの参加の権利」、学文社、135-168頁。

*2004年、玉川大学大学院文学研究科教育学専攻修士課程修了。筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科科目等履修生(2006~2007年)。主な研究分野・関心領域は、文教行政、文教政策、教育法体系。