◎秦祐一郎(参議院議員藤末健三事務所 特別研究員)
はじめに
2007年6月に、参議院政府開発援助に関する特別委員会によるODAの調査報告書が議長へ提出された。同提言書ではODAの7つの重点施策に対して提言が行われたが、それ以外にもまだこれからの改革の論点となるべき重要な問題が多数存在する。筆者は同委員会に所属する藤末健三参議院議員のスタッフとして、ODA委員会に携わってきた。そこで、ODAの更なる改善に向けて以下に意見を述べていく。
より客観的な評価システムの確立
ODAでは案件ごとに事後評価を行っている。ここで指摘したいのはその評価基準が不透明であり、また「何を達成したか」という結果よりも「どのように行ったのか」というプロセスの説明に比重が置かれていると言う点である。さらに外務省の発行する『経済協力評価報告書』での事後評価によれば、年間で多くの数のODA事業が行われている中で、「成功したといい難い」と評価される案件はわずか数件である。現状では結果に基づいた反省がなされず、また反省自体が無いためにきちんとフィードバックがなされているのかも不明な状況である。
我が国のODAをより効果的・効率的にし、質の向上を図るには、失敗の反省を活かすこと、新たな評価基準を導入し、反省を次の計画に活用するシステムの確立を図る事が必要不可欠である。評価基準の策定にあたっては、現在の「ガイドラインに沿った手続きに則って事業を行っているか」というプロセス重視の基準を改め、計画段階・事前評価の段階から「何を達成すれば案件が成功なのか」を明らかにし、その上で数値基準を設けるなどして具体的かつ客観的な目標を定めるようにするべきである。ゴールを明確に定めることで、ODA案件の達成状況・結果が浮き彫りとなり、ODAに則って適正な評価がなされるのではないだろうか。
また現行制度では、外務省が国内の専門家に依頼して、外務省内の審議会において事後評価を行うシステムとなっており、真に客観的な評価がなされているとは言いがたい。ODAは拠出国側の論理だけで成り立っているのではないのであり、途上国側からの評価・国際社会からの評価を得て初めて国内的にも国際的にも有効な援助たりうる。拠出国自身が自らの援助に評価を下すのでは、いささか客観性に欠けている。より正確な評価を得るためにも国際機関等から専門家を招いて事後評価に参加してもらうなど広い範囲から評価を得るような仕組みを作り、ODAの反省点を多面的に、質の向上につなげるようにすることが重要である。
現地ニーズに合ったODAの実施
「ODA評価」という観点に立ったとき、現地において実際にODAが役に立ったか、日本の事業が受け入れられているかという視点も欠かす事はできない。現行のODA実施体制では、相手政府からの要請によって援助を行うために、日本が直接的に現地住民の要望を聞いて事業を行うことはできない。だが、その制約の中でいかに援助を現地住民のニーズに近づけるか、ということは「開発援助」というODAの本質を考えれば、必ず満たさなければならない条件である。
新聞・雑誌等ではしばしば日本のODAが現地住民のニーズと合致せず、逆に評価を落としてしまうケースが報道されているが、それらの事例の原因として共通するのは、やはり現地住民のニーズを把握していないことにある。当該地域での事前調査が不十分なまま開発コンサルタントが計画を立案し、ニーズを正確に汲み取って住民が真に欲する方法での援助が実施できていないのである。その結果として、現地では住民の生活の質の向上に与しない無用の長物として、また国内でも税金の無駄遣いとして、それぞれ不満を集めている。
メディアでODAの問題として報道される案件の中で多いケースとしてもう一つ挙げられるのは、途上国に施設を作り、また機材を供与したのにも係わらず、経営のノウハウや機材の修理の仕方などの引継ぎが不十分なために、結果として供与したODAが有効に活用されていないという事例である。このような事例は、限られた援助資金の濫費の問題としてだけでなく、援助どころか逆に途上国の住民に負債を与えてしまうことともなり、これも結果として日本のODAへの評価の低下にもつながっている。
非政府組織(NGO)・民間との連携を
そもそもなぜ現地のニーズを満たすための調査やアフターケアを十分に行う事ができていないのだろうか。
その原因の一つとしてあげられるのは、専門知識を持って大使館等に勤務する現地スタッフの専門知識の不足である。実際に現地での計画の立案及び管理を行うためには、現地スタッフに求められる仕事に対して、専門知識を有する職員の数が足りていない。その結果、政府による自力での調査が難しく、案件を担当する開発コンサルタントの調査結果を精査することが難しい状況に陥っている。
外務省と国際協力事業団(JICA)で独自にODA案件の調査を行える体制づくりに取り組むためには、外務省が本年度からパイロット事業として開始した「寺子屋構想」に代表される国際協力分野の人材育成政策を今後推進させるとともに、能力をもった人材に現地調査を依頼するなど、人員を拡充しなければならない。
それと同時に、長年現地に根ざした活動を行っているNGOにも注目する必要がある。今後資金の面で国がNGOの活動の幅を広げるよう努めると同時に、例えばNGOがODAの事前、事後調査も担当できるようにするなど、資金面と同時に権限面でもNGOに活動の幅を与え、その行動を支援することが望ましい。このように専門知識を有した現地スタッフを拡充することで、案件実施にあたって事前に現地のニーズの調査を実施することが可能となる。事前の調査結果を踏まえて事業を開始するプロセスを確立することで、ODAの非効率な部分を改善し、より途上国からの信頼を得られるようなODAを実施することが可能になる。
ODAの本質は、援助によって途上国の自立を促し、日本が「国際社会で名誉ある地位を占める」という互恵関係にある。これからのODA改革、その第一歩は政策立案に現場の声を反映する仕組みを構築し、事業ごとに反省を行って、改善を重ねられるようなシステムの確立から始めるべきである。
