民が関わる政策活動を具体化する仕組み創り
2007年09月10日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎清水美香+中嶋圭介(グローバル政策イニシアティブ(GPI) 共同ディレクター)+上野真城子(GPI顧問)

21世紀の黒舟来航

上喜撰たった四杯で夜も眠れず―。

江戸末期の日本に、後に明治維新につながる新時代への覚醒をもたらした黒舟来航は、今日の日本にこそ求められているのかもしれない。ここ四半世紀、グローバル化の深化と少子高齢化の加速によって、戦後日本の政治、経済、社会、家庭生活の根幹を成してきた多くの前提が覆される時代を迎えている。しかし、日本の公共政策の時計は、「変革の時代の現実に目覚め、これに適応する新しい国の形創りに抜本的に取り組む必要性」を指したまま、今日もその警鐘を鳴らし続けている。本稿では、この鐘の音に耳を傾け、民の関わる政策活動を具体化する仕組み創りのために、ワシントンを中心に立ち上がった新しい政策イニシアティブについてご紹介する。

GPI設立に至る経緯

ワシントンは、米国の政策形成の中心であるだけでなく、世界の政策形成のメッカでもある。1980年代後半、当地の有力シンクタンクでも正規上級研究員として活躍する日本人が現れ、それまで日本の短期出向者が担ってきたワシントン情報の伝達は、より深い政策的洞察を提供するという点で一定の発展をみた。こうしたパイオニアたちが現場で目の当たりにしたのは、激変する時代に適応する国や社会創りのため、変革を起こす具体的なアイデアを創出し、これを形にする力を持った米国の政策形成ダイナミズムであった。同時に、日本の立ち遅れた現状に対する危機感は、パイオニアたちの心を母国に向けさせた。ここに、政策アイデアのみならず、日本の政策形成変革のためのアイデアを交換する、海を越えたキャッチボールが始まった。

時を経て今日、米国側のグローブは、次の世代に受け継がれている。日本側は、帰国したかつてのパイオニアに加えて、近年、草の根レベルで広がりを見せている様々な政策活動の旗手たちの手にある。しかし、個々の取り組みが、線や面となり、うねる波となって変革のために実際的影響を与えるには至っていない。重要な政策情報・データや政策形成・決定過程の多くは未だ官僚の一部や政治家に独占されており、学問的研究や調査会社による調査は存在しても、客観的分析に基づく公正、独立的な政策研究、評価、それに基づく政策立案が行われていない。   

この現状は、政策産業(市場)が日本に不在であることと大きく関連する。この政策産業の不在には多くの要因が絡んでおり、その創出は日本の長年の大きな課題である。一方、それを促すための1つの鍵として、幅広い層による個々の新しい政策アイデアや研究成果物を、問題解決方向に繋げる仕組み、さらに研究成果物を一般関係者に広く知らせ、建設的な議論を重ねるための場の形成、言うならば、民が政策に関与する政策インフラ創りが不可欠であると考える。

グローバル政策イニシアティブ(GPI)創設のポイントはここにある。現状変革へは長い道程であるが、GPIは政策インフラの整備を促す活動に主眼を置き、個々に散在する取り組みと知識を効果的に収束させ、問題解決型の政策形成を導くような「仕組み」創りに取り組んでいく。

GPIのアプローチ

新しいアイデアの提示に留まらず、最終的には実際の政策への反映の在り方についても考慮しなければならない。しかしGPIは、上述の政策インフラの整備が最優先課題と考え、それを促す仕掛けとして、国内外の政策関係者を連動させ、グローバル化と公共政策の関係に焦点を当てるアプローチを取る。これには、次の三つの理由がある。

第一に、海外から日本に有効な政策的洞察やアイデアを提供できる政策専門家、一方で日本国内にも同じ問題意識を持つ人が少なくない中で、こうした人々を橋渡し、有機的に結びつける仕組みがないからである。第二に、グローバル化の深化によって従来の公共政策の在り方が益々問われている実態を、直視することが急務であると考えるからである。第三に、グローバル問題と公共政策は縁遠いと考えられがちであるが、実際には日本社会の現状に密接に結びついている。こうした問題に関わる政策情報を客観的且つ分析的に提供し、そうした政策リテラシーを日本社会でも高める必要があるからである。

はじめの一歩

GPIは、去る7月に東京で、また8月にワシントンで、はじめの一歩を踏み出した。東京では「グローバル化との連関性:日本の公共政策の可能性と課題」と題して、半日の政策フォーラムを開催し、約90人が出席する中、日・米・欧各地から全くの無報酬で発表者が駆け付け、率直で忌憚のない議論が行われた。そこで繰り返し強調されたポイントは、歴史的な世の中の変革に、国、社会、企業、個人が対応しきれていない現状において、国民(市民)一人一人があらゆる知恵と努力を結集していく必要があるという点である。これにより、今後GPIが取り組むべき課題と方向性が再確認された。ワシントンにおいては、異なる分野から招いた識者とラウンドテーブル形式で、GPIの趣旨説明と今後の活動戦略を精査するためのブレーンストーミングを行った。

今後の展望

最後に、今後の活動の展望について述べる。

(1)多面的政策ネットワーク基盤創り

GPIは今後、日本国内の政策関係者、政策ネットワークだけでなく、米・欧の関係者と有機的な協力関係を築きながら、核となるネットワークを多面的に拡大していく。その際に、各政策分野の専門家から構成される「政策エキスパート委員会」を設置し、個別研究プロジェクト実施のための基盤創りを行う。

(2)情報・知識の体系的蓄積と公開

GPIの趣旨に沿って日・英で執筆・発信できるプロを集結させる。情報・知識の効率的な体系化という点から、個々の成果物をウエブサイトで集約すると共に、GPIが主眼としている「仕組み」、「グローバル化」、「政策研究」に焦点を当てた研究ノートなどを定期的に発行していく。

(3)建設的な議論を重ねる場作り

質の高いフォーラムやラウンドテーブルを継続的に実施することによって、単に政策研究の成果を一方的に発表する場ではなく、立場や専門を超えた議論、政策アイデアを練り上げ、問題解決に結びつけるための建設的な議論の場を提供する。

グローバル化の深化と少子高齢化の加速によって、日本の政策形成には大きく且つ着実な変革が早急に求められている。それには、個人、企業、政府機能、社会全体に、柔軟性と適応性が求められる。海を越えて、そして、世代、分野、立場を越えて、この国の新しい形創りのために知識や力を結集する一助となれることを願っている。

コメント:GPIに期待すること(上野真城子)

日本の政策状況は危機的である。それはある意味で私たちが警鐘を鳴らし始めた20年前より、また黒船の到来を意図したプロジェクトを行った10年前よりも、危機は深まっている。

この政策危機は日本の市民社会と民主主義の危機を意味する。その回避には政府機能の再構築が不可避である。これを可能にするのは、政治学や行政学といった既存の学問体系ではなく、政策科学、政策分析評価研究という学際的実践・知識領域の形成と確立である。これをアカデミズムと政策実務者を総動員して行いつつ、政策市場を創ることは喫緊の課題である。

GPIの優れた問題意識と危機感覚を、日本のないしはグローバルな政策市場を形成する運動のイニシアティブとしていければと願う。