◎篠原信(農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所 研究員)
リアル・エコノミーと技術
北欧は環境問題への取り組みで世界の最先端を走る地域だが、その一つ、スウェーデンでは、「リアル・エコノミー(真の経済)」という概念が提出されている。
これは、金銭ですべてが決着し、資源やエネルギーがどうなろうと、富の偏在が起きて飢え死にする人が出ようと知ったことか、という、現実と乖離して暴走するマネー・エコノミーに対して、現実の地球の物質循環を視野に入れ、環境の持続性を考慮し、富の公平性に目を配る本当の経済、Real economyにこそ我々は努力していかなければならないのだ、ということ言いたいのだと理解している。
スウェーデンでは、リアル・エコノミーを達成するための技術開発、つまり環境技術の推進に力を入れている。北欧が将来、世界をリードする地域になると考えるのは、その先見の明を評価するからだ。
だが、リアル・エコノミーを達成するために、科学者は何をしなければならないのだろうか。ナチュラル・ステップ宣言でも、そのことを明確に概念規定できるとは言えない。リサイクル、リユース・・・などの従来の言葉で表現するにとどまっている。だが、一言で言い表すことができる。それが、「真技術」なのだ。
真の技術と虚妄の技術
では、「真技術」とは何か、考えてみよう。もし石油も資源もろくに手に入らないとなったら、一体どんな技術が残るだろうか。
自動車は動かない、冷蔵庫も動かない、テレビやパソコンなどももちろん、ほとんどの製品がダメだ。
私たちは高度な技術文明を築いたように考えているが、なんのことはない、資源とエネルギーをジャカスカ浪費できるという前提がなければ何もできない、ちんけな技術しか持っていなかったことが分かる。
「ハイテク」と言うが、資源やエネルギーなしに成り立たないなら、それはちっともハイテクではない。
石油という海に浮かんだ、砂上の楼閣、バベルの塔の技術だったのだ。地球環境の持続性に配慮し、社会の富の偏在に心を痛め、公平性を確保し、生活の質を維持する技術、「真技術」は、いまだ開発されていないのだ。
たとえば、自然と向き合うはずの農業技術のほとんどが、石油エネルギーを前提にしていることでも分かる。農薬は石油から合成され、トラクターはガソリンで動き、化学肥料は高温・高圧の大量のエネルギーを使って合成されている。石油なしに成り立つ技術は、実は現在の農業技術ではほとんどない。
資源もエネルギーも浪費せず、それでいて食料の生産性を高める技術は、むしろ江戸時代の方が高度である。私たちはその技術を既に忘れ、失ってしまっている。「真技術」において、私たちは既に退歩しているのだ。
今後、科学者ないし研究者が努力すべきは、真技術(Real techniques)の開発だ。環境の持続性を阻害せず、富の公平性に寄与し、生活の質を一定程度維持できる、そうした真技術の開発は、実はほとんど手つかずである。
真技術でもって大幅に生活を向上させる(=資源を浪費しない「高利環性」と生活に便利な「高利便性」の両立)努力が、私たち研究者には必要であろう。そのことに、もっと私たちは意識的であるべきである。
