ダイエット被害への政策提言

2007年10月10日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎服部慎太郎(参議院議員藤末健三事務所 特別研究員)

問題の背景

近年、痩身願望が著しく高まっている。ある研究機関の世論調査では、7割以上の人々が何らかのダイエットを経験しているとの結果が出ており、女性に至っては9割近い。こういった需要の高まりを受けて、様々なダイエット関連製品が大量に世に出回るようになった。しかし、それに伴ってダイエット関連製品に対する消費者からの苦情が多々寄せられているという。

増加する消費者被害の現状

平成18年度において、全国の消費生活センターに寄せられた「健康器具」及び「健康食品」に関する苦情相談は約16000件にも上っている。これらの苦情すべてがダイエット食品に関するものではないが、このような現状は、急成長するダイエット市場を管理・規制する行政側が追いつけていないことを示唆している。

具体的な苦情の内容を見てみると、「ダイエットの機械を使うと10分で4000カロリー消費などと謳っておきながら効果が一向に現れない」といったものや「ダイエット食品・器具の利用により、痩せないことはおろか、さらに下痢やかぶれなどの症状までもがみられる」といったものまで見受けられる。また、こういったクレームに対しての業者の対応の悪さにも苦情・相談が寄せられている。

これらの苦情の特徴は「製品に表示された効能」と「実際の性能・効果」が著しく乖離していることに対してのものであるということだ。「痩せる」と表記してありながら全然痩せない、さらには健康への悪影響まで見られるなど重大な問題である。また、これらの問題に対して業者は消費者それぞれの「個体差」を理由に十分な補償を行っていないというケースも見られる。

ではなぜこういった問題が発生するのだろうか。それには二つの大きな原因がある。

行政側の対応の遅れ

そもそもこういった問題への担当省庁はどこであるのだろうか?筆者は、健康増進法の基本方針[1]を根拠に、厚生労働省がこの責任を負うべきだと考える。その厚生労働省であるが、ダイエット製品被害の現状に対して十分に対応し切れていないのではないか。

今夏の参議院において、この問題についての質問がなされたが、それに対する政府答弁はというと、「ダイエット製品に関する件数は把握しておらず、回答は困難である」というものであった[2]。つまり、現状では厚労省内において「ダイエット製品」の定義すら存在しないのだ。健康増進法や薬事法により保健用食品や医薬品に関する法規制は整備されているが、「ダイエット製品」そのものに対しての対応は不十分であるといえよう。これだけ痩身効果を謳った製品への苦情がありながら対応する明確な制度がなく、上記二つの法律からこぼれ落ちた製品への対応には全く手が回っていないのが現状である。

不当表示防止法の不備

さらに、上記の誇大広告などの問題に対処するための法律として挙げられる「不当景品類及び不当表示防止法(以下不当表示防止法)」にも不備がある。公正取引委員会発表の運用指針(以下運用指針)[3]によると、この法律では、製品の表示と実際の性能・効果が著しく異なる場合は、その根拠となる実験結果などの資料提出を業者に要求する事が可能であり、さらにその資料が合理的根拠と成り得ないと判断される場合はその業者に対して排除要求を行う事が出来る。

では、なぜこのような法律がありながら苦情の件数はあれほどの数になっているのだろうか。
運用指針によると、不当表示防止法の適用の判断基準としては「表示の受け手である一般消費者に,著しく優良と認識されるか否か」という観点から判断される。さらに、「それが著しく優良であると示す」表示か否かの判断基準は「表示内容全体から一般消費者が受ける印象・認識」をベースにするという。

これでは明確な判断基準には成り得ないし、結果極めて主観的な結論に至ってしまう。この曖昧さに問題点がある。

運用指針では、これらの適用に関しては具体的な事例を挙げており不明瞭な点はないとしているが、そもそもこうしたケースバイケースによる判断に基づいた運用のあり方が問題なのである。

展望と政策提言

まず上記の二つの課題をクリアしなければならない。一点目として、厚生労働省が「ダイエット製品」を新たな政策対応を要する分野と定義づけ、それに対する新たな評価基準や法整備を整えることが考えられる。例えば「ダイエットマーク」認証といった、基準を満たす製品だけにダイエットに関しての効能表示を許可するような制度を取り入れるべきである。二点目として、不当防止法の適正な運用を図るべく、公正取引委員会が厚生労働省とも連携してダイエット製品に対しての法律適応の判断基準を明確にする必要がある。

そしてその上で、新たに各省庁が情報共有して包括的に対応することが重要だ。具体的な方法としては、経済産業省が試みているPIO−NET[4]のようなシステムを厚生労働省や公正取引委員会も積極的に取り入れることを提案する。消費者センターの情報を各省庁が自由に閲覧出来るこのシステムを導入し、つぶさに被害の声に応えることで、政府がダイエット被害に対し対応しきれていない現状を一刻も早く改善するべきである。

上記に挙げた提言は、確かに難しい問題をはらんでいる。省庁間の連携と言っても、この問題には厚労省、公取委、さらには経産省など様々な省庁が関わっている。さらにPIO-NETに関して言うと、全国のセンターの情報を一元化するシステムは依然として未完成であるし、また情報漏えいなどの問題で、消費者センター側がこのような試みに消極的な場合もある。しかし、これらの被害は国民の健康を直接脅かすものであり、対応の困難さは言い訳にはならない。迅速かつ包括的な対応を望む。

脚注

[1]健康増進法 第二章基本方針等
(http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/html/hourei/contents.html)
[2]参議院質問主意書情報「質問主意書一六六第四六号」
(http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/166/meisai/166046.htm)
[3]公正取引委員会「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針 不実証広告規制に関する指針」
(http://www.jftc.go.jp/keihyo/files/3/4jou.html)
[4]「全国消費生活情報ネットワーク・システム」のこと。省庁が消費者センターの情報を自由に閲覧できるシステム。経済産業省が試みている。