教員出身でない者の校長登用等に係る行政運営について
2007年11月15日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎金子弘(郵政事業株式会社 期間雇用社員)

緒言

学校管理職(校長等)に良い人材を教育界の外から得る方策として、教員出身でない者[1]の公立学校長への登用が行われており、文部科学省の調査[2]によれば、既に132人が登用されている。だが、いじめ問題や未履修問題で地方教育行政の教育政策法務能力[3]やその行政運営に問題があることが表面化して来ている。

そこで、本稿では、教育行政の法律主義[4]の考え方に立って、教員出身でない者の校長登用等に係る行政運営が現実どうなっているのかを明らかにすることを目的とする。

校長の資格要件緩和の背景と趣旨

中央教育審議会答申[5]を踏まえて、校長の資格要件が緩和され、その趣旨は文部事務次官通知[6]において、(1)「学校が、より自主性・自律性を持って、校長のリーダーシップのもと組織的・機動的に運営され、(中略)特色ある学校づくりを展開することができるよう」にするため、(2)「教育に関する職の経験や組織運営に関する経験、能力に着目して、地域や学校の実情に応じ、幅広く人材を確保することができるよう」にするためであると示されている。

行政運営の実態

第一に、文部科学省の調査報告書[7]によれば、民間企業出身者を校長に登用することについて、(1)一般教員は40.7%、(2)校長・教頭は38.5%、(3)教育長は27.6%がまあ反対・反対となっており、地方教育行政では前出の中央教育審議会答申及び文部事務次官通知において示されている「校長の資格要件緩和の背景や趣旨」への適切な理解が得られていない。

第二に、全国都道府県教育長協議会の研究報告[8]によれば、平成15年8月現在、校長に登用された原則として教員免許を持たず、「教育に関する職」に就いた経験がない者51人の平均年齢は54.3歳となっており、教員出身で新たに校長に登用された者の平均年齢54歳[9]と同様で、登用年齢が高齢となっていることから、前出の中央教育審議会答申において示されている「若手の校長への登用」といった課題が改善されていない。

第三に、前出の文部科学省の調査によれば、教員出身でない校長のうち、退職等によって既に校長職を離れている者30人(22.7%)の1校あたりの平均在職年数は2〜3年[10]となっており、平成16年度の教員出身の校長(退職校長)の1校あたりの平均在職年数は2〜3年[11]と同様で、短いものとなっていることから、前出の中央教育審議会答申において示されている「校長の在任期間の長期化」という課題が改善されていない。

第四に、文部科学省の統計調査[12]によれば、教員出身でない者を校長として登用しているにも関わらず、校長職よりも低い身分[13]となっている者が29人(22.0%)に上っており、前出の中央教育審議会答申及び文部事務次官通知において示されている「校長としてリーダーシップを発揮する」ことができる条件整備がなされていない部分がある。

第五に、前出の全国都道府県教育長協議会の研究報告によれば、登用された教員出身でない校長で、給与待遇に十分満足している・満足しているのは26.5%(13人)に留まっており、教育界の外から良い人材が校長職への仕官を求めて来る魅力的な給与待遇となっておらず、前出の中央教育審議会答申及び文部事務次官通知において示されている「幅広く人材を確保する」ことができる条件整備がなされていない部分がある。

以上のことから、一部の地方教育行政において、教員出身でない者の校長登用等に係る教育政策法務能力及び行政運営手法に問題があるといえる。

結言

これらの問題の背景には、地方教育行政官へ就任するにあたって、一定水準の「教育行政に関する専門性」を公的に保証する仕組みがないこと。また、教職員の養成・研修及び地方教育行政の施策推進に関して連携・協力を行っている教育学分野の学者の資質等に問題があること[14]、等が関係していると考える。

よって、文部科学省は第一に、全国どこの地方教育行政官であっても、ある一定水準の「教育行政に関する専門性」を担保するという考え方に立って、教育政策法務能力の向上方策を講じるべきであると考える[15]。

第二に、大学の自治[16]を尊重しつつも、大学等には、公金が投入されていることから、教育学部、教育学科及び教職課程(教育学系)科目担当の教員の一定水準の質を担保しなければならないという考え方に立って、新設時の設置認可申請だけでなく、その後も質が担保されているかどうかを監察して、問題があれば是正措置を講じ、なお改善されない場合は、学部あるいは学科単位での閉鎖命令、教職課程認定の取り消しといったことを行うようにすべきであると考える。

脚注

[1](1)原則として、教員免許を持たず、「教育に関する職」に就いた経験がない者、(2)教員免許状を持たないが、「教育に関する職」に10年以上就いた経験がある者のこと。
[2]文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課「民間人校長の任用状況等について」(平成18年9月22日)
[3]文部科学省の教育政策の方向性、法令の趣旨を十分に踏まえて、教育政策を実現する手段として、教育法制度を適切に運用するとともに、ローカルオプティマムを達成するための教育政策の企画立案及びその企画立案した教育政策を円滑に推進することができる力量のこと。
[4]各地方で行われる教育は全体として国の教育を構成しており、法令の規定及び立法の趣旨に基づいて行政運営が行われなければならない、との規範概念。
[5]中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」(平成10年9月)
[6]「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成12年1月21日、文教地第244号)
[7]文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課「「義務教育に関する意識調査」報告書」(平成17年11月)
[8]全国都道府県教育長協議会第3部会「規制緩和・地方分権下における教育行政の実態―地方の実情に応じた教育―」(平成16年3月)
[9]文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課「平成18年度公立学校校長・教頭の登用状況について」による。
[10](1)2年未満が3人、(2)2年が10人、(3)3年が12人、(4)4年が5人、(5)5年が1人。※1校目を7ヶ月、2校目を1年5ヶ月在職した者1人をそれぞれ2年未満として数えたことから、合計が31人となっている。
[11]文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課「平成17年度公立学校校長・教頭の登用状況について」による。
[12]文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課「教員出身でない者の校長任用状況等について」(平成17年8月9日)
[13]「副校長」、「学校付」、「開校設立準備室長(嘱託)」、「県立高等学校経営調査事務」を含む。
[14]内閣府規制改革・民間開放推進会議第28回教育ワーキンググループ議事概要(平成17年10月12日)、3頁を参照。
[15](1)教育政策法務能力の育成を目的とした専門職大学院を設置するとともに、(2)国家資格試験(弁護士や医師)のような仕組みを創設する、等。
[16]第145回国会参議院文教・科学委員会会議録第9号(平成11年5月13日)、26頁、当時の文部大臣の発言を参照。