地域活性化のために「人」をつなげ

2007年12月18日 23:41 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎庄司昌彦(国際大学GLOCOM 助教/研究員)

ITによる地域活性化

地域活性化は、現在もっとも重要な政策課題のひとつだ。福田内閣が設置した「地域活性化統合本部会合」は2007年11月に「地方再生戦略」をまとめた。本稿ではその中にも挙げられている「情報技術の活用」による地域活性化について考えたい。

「地方再生戦略」は、IT戦略本部が作成した「ITによる地域活性化等緊急プログラム骨子」を推進し、さまざまな施策に取り組むと表明している。具体的には2007-08 年度を「支援強化期間」とし、各省庁に施策を前倒しで実施するなど取組の加速化や拡充を求めている。

1月からの通常国会や2008年度予算は、地域活性化にかなり力を割いたものになるだろう。だが国が描いた絵を実行に移すためには地方自治体の役割が決定的に重要だ。地方自治体には、地域活性化のためにITインフラの整備や利活用の促進などの計画を前倒し、積極的に国の支援策等を活用することが求められる。


地域社会を機能させるもの

ITの活用に大きな予算が付く、というと新たなバラマキ型公共事業ではないかという批判がある。確かに緊急性の無いデータベース入力作業などを雇用対策として行った例はあるし、大規模な公共システム開発を行うIT企業に対して「ITゼネコン」などと批判を向ける声はある。そのような批判は当たっている部分もあるが、IT業界が持つ構造的な問題もあり、ここでは深く立ち入らない。それよりも、これから行われる「ITによる地域活性化」に何が求められるかを考えてみたい。

地域活性化を語るときに、「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」という用語をたびたび耳にする。「地域の活性化はソーシャルキャピタルの醸成によってもたらされる」とか、「ソーシャルキャピタルが豊かな地域は元気がある(安全・安心である、景気がいい等)」などといった使われ方をする。地域活性化には、この「ソーシャルキャピタル」というコンセプトがカギであるという考え方をする人が少なくない。

ソーシャルキャピタルについてはさまざまな研究があるが、ロバート・パットナムという政治学者が行った「Making Democracy Work(「邦題:哲学する民主主義」、1993年)」という研究が代表的である。彼は、1970年代にイタリアで進んだ地方分権について研究し、地方政府がよく機能した地域は、自発的な市民活動が根付き活発で水平・平等主義的であると考えた。

このときに彼が、「人々の協調行動を活発にし、効率を高める社会的特徴」として位置づけたのがソーシャルキャピタルだ。これは「信頼」、「互酬性規範(互いに与え合う意識)」、「市民参加のネットワーク」などによって構成されていて、ソーシャルキャピタルが充実している地域では、地域経営が効率的に機能しうまくいくという。これらを踏まえて彼は、アメリカ社会でソーシャルキャピタルが低下し地域が衰退しているという指摘を行った。

パットナムのソーシャルキャピタル論は、日本の地域社会を考える際にも参考になる。もともと日本の地域社会には、「結」や「講」やさまざまな中間組織が存在し、「信頼」、「互酬性規範」、「市民参加のネットワーク」の源となっていたと考えられる。だが近代化が進むと社会分業や地方行政が発達し、旧来の仕組みは衰退した。地域社会は自律性が低下し、「政府の指示や知識、中央の資源」に頼って全国どこでも画一的な姿になるような地域経営を行った。その中で町内会や業界団体など、新たな中間組織が整備されたが、近年は既得権化したり機能不全に陥ったりしていて衰退傾向にある。また特に都市部では人々の流動性が高いため、協力関係がなかなか構築されず、危険や不安感が高まっている。
今後の地域社会を考えると、もはや「政府の指示や知識、中央の資源」に頼って生きていくことはもはやできなくなってしまったといえるだろう。少子高齢化が進みグローバルな競争が進む中で中央は地方を支えきれなくなっている。地域社会は政府や中央になるべく頼らず、自ら課題を分析し、目標を定め、自前の知識や資源で問題を解決していく必要がある。

ICTで「人」をつなげ
ただ、衰退が進む地域社会にいきなり自立を求めるのは難しい。政府は、地方分権や税源の移譲などを進めているが、パットナムのイタリア研究やソーシャルキャピタルの議論を踏まえると、これからの地域社会にとって「人々の協調行動を活発にし、効率を高める」ことや、そのために「信頼」や「互酬性規範」や「市民参加のネットワーク」を育てることがきわめて重要ではないかと思えてくる。行政などとともに地域経営を機能させるための中間組織を生み出し、活性化させ、それらの連携を機能させるような「ネットワーク型のガバナンス」を作り出すこと、と言い換えてもいいだろう。

ICT(ITに「Communication」を加えた「ICT」という言葉の方がこの場合は適切だ)による地域活性化も、使われないシステムの構築や、技術主導の実験事業に大金をつぎこむのではなく、「人」をつなぎコミュニケーションを活発化させること、そして信頼や互酬性規範や参加ネットワークの形成を支え、ソーシャルキャピタルを醸成するために行われるべきだ。

ネット上のコミュニケーションでは助け合いの精神がしばしば機能しているし、さまざまな情報や体験を共有することで、人々が互いの信頼感を高めることもある。ネット上のコミュニケーションからサークルや団体など新たな中間組織の活動を生み出した例もたくさんある。ICTの利活用というのは、実体のないバーチャルな世界の話ではないし、若者が遊んでいるだけの世界の話ではない。ICTこそ、人々の協調行動を活発にし、地域社会を活性化する基盤となる可能性がある。地域活性化のために、ICTで「人」をつなごう。