「機能」で比較するマニフェスト―宮崎知事選挙・大阪府知事選挙を題材として―
2008年02月27日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎渡瀬裕哉(PRマネジメント株式会社 代表取締役)

実務家視点でのマニフェスト比較

2007年1月宮崎県知事選挙を皮切りに、地方自治体の首長選挙におけるマニフェストを活用した戦略的な選挙・行政運営の事例が地方自治体に生まれつつある。ただし、現在のところ、マニフェストの意義は抽象的な学術要素の強いものに留まっており、選挙や行政運営における実務家の視点からの機能分析が欠落しているように思われる。

そこで、本論考においては、一昨年の宮崎県知事選挙及び本年の大阪府知事選挙を題材として比較することで、マニフェストの持つ機能的側面について分析を実施する。なお、本論考は私の所属するNPO法人の見解ではなく、あくまで一個人の見解として述べることを事前に断わっておく。

マニフェストの3大機能

私はマニフェストには大きく分けて3つの機能があると考えている。3つの機能とは、(1)争点創出機能、(2)正統性付与機能、(3)行政運営機能である。(1)争点創出機能とは、候補者側から選挙戦の最中に「選挙の争点」を提示する機能である。この際、候補者が「選挙の争点」として提示した内容がメディアの設定した争点などの社会状況と一致した場合に、社会的ブームを生み出すなどの効果が期待できる。

(2)正統性付与機能とは、マニフェストに提示された政策内容への正統性を付与する機能である。選挙戦の過程を経て、マニフェストに提示された政策は有権者からの付託を受けたものに変質する。これは利害調整が厳しい政策を実施する場合に関係各位を説得するための必須の要素である。

(3)行政運営機能とは、行政運営の基本的な方向性を規定する機能である。最近では各有力候補者のマニフェストに合わせて職員が複数プランを事前に用意し、どの候補者が当選しても行政運営に支障が生じないように調整していることも多い。このような事前対応はマニフェストに具体的な方針やプランが明示されているからこそ可能となっている。マニフェストは上記3つの機能を意識して作成されていることが重要であり、1つでも欠落している場合は選挙中・選挙後のいずれかで問題が発生する可能性がある。

宮崎:成功、大阪:失敗

具体的な事例として、宮崎県の東国原知事・大阪府の橋下知事の事例を比較してみたい。最初に断わっておくが、私自身の見解として宮崎県は成功事例、大阪府は失敗事例として捉えている。大阪府はいまだ政権発足間もない状況であるため、今後の挽回への期待を込めて評価していきたい。

マニフェストの「争点創出機能」の観点からは、東国原氏は「産業・観光活性化」「入札制度改革」「財政改革」といった争点を作り上げた。これは、メディアが設定した争点である官製談合対策、財政改革への具体策を提示するとともに、産業・観光について「宮崎のセールスマン」としての知事の役割を最大限に発揮する政策を示した成功事例である[1]。この争点は有権者にも受け入れられて、その後昨年の宮崎ブームにつながるきっかけになった。

一方、大阪府知事選挙では、橋下氏の選挙戦は「子どもが笑う」というフレーズに焦点を絞ったものであり、候補者本人の「子だくさん」イメージも手伝って子育て支援という争点作りに焦点を集中していた[2]。候補者の全てのメッセージを子育てに集中させることで、まとまりのない対立候補のメッセージと比べて有利にメッセージ発信を行っており、若年世代からの高い支持を得ることに成功した[3]。ただし、メディアの設定した争点及び各種世論調査から導き出される争点は「景気対策」「財政再建」であり、特に注目されていた「財政再建」については橋下氏が一部数値目標や演説で触れたものの、具体的な方法論・プロセスが十分に示されなかったために橋下氏への爆発的な支持の醸成はつながらなかったと想定される[4]。結果として、東国原氏は橋下氏よりも効果的に「争点創出機能」を駆使したと言えるだろう。

マニフェストからブレた橋下氏

(2)正統性付与機能の観点からは、東国原氏は行財政改革、財政改革などの厳しい制度変更や数値目標について選挙戦を経てマニフェストの具体策に与えられた正統性を駆使し、巧みな行政運営を行うことで一定の成果を挙げつつある。東国原氏は著作や発言の中で、マニフェストの大切さを真摯に訴えられており、有権者との約束を果たそうとしているその姿勢に対する県民からの支持率は一年を経た現在でも高水準を維持している。

一方、橋下氏は選挙直後に「府債の発行ゼロ」発言を行ったが、そのような内容はマニフェストに盛り込まれておらず、職員や議会からの苦言を受けて修正。結果、早々に姿勢のブレを指摘される事態となった[5][6]。両者は置かれた状況に違いがあるものの、厳しい利害調整を有する政策は事前にマニフェストによって具体策レベルで有権者から信任を得ることが重要であることを示した一例である。

組織へ「落とし込める」マニフェストがワークする

(3)行政運営機能の観点からは、東国原氏は、「県民総力戦」のコンセプトのもと、自身の政策を体系だった政策集としての形式で整理しており、副知事マニフェスト以下、県庁の予算・計画への落とし込みが可能であった[7]。このように効率的な組織活動へ落としこむことが可能なマニフェストが、東国原氏の積極的なPR活動を裏で支える要因の一つとなった。

また、財政運営に関しても数値目標が明示されているため、行政側もプラン実現に向けた準備を整えることができ、スムーズな体制移行を実現させた。一方、橋下氏は事前に財政運営の具体的な内容が提示されていなかったため、行政側は上記の「府債の発行ゼロ」を織り込んだプランを立案していなかった。そのため、マニフェストに盛り込まれた新規事業の実施が6月補正予算まで半年間先送りにされる事態が発生している(ただし、盛り込まれた内容は財源の手当の目処がつけば達成可能なものであり、今後の挽回が期待される)[8]。今後、橋下氏は自身の政策をどのように行政運営に反映させていくのか、組織論の観点から捉え直す必要があるだろう。

3大機能を意識したマニフェストづくりを

以上のように、マニフェストのもつ3つの機能についての分析と事例検証を実施した。これらの機能を明確に意識した内容のマニフェストを作成できることが選挙に勝利するだけでなく、その後の行政運営において成果を挙げるためには重要である。個別の機能を最大限に活用するには更に実務的なノウハウを必要とするが、それは多くの事例を通して蓄積・共有されていくことになるだろう。今後、様々な人々がマニフェストを通して政治家の政策立案に携われる場が増えていくことで、多様な分野からの知識・知恵が日本の政治の場に生かされることを願っている。

脚注

[1]2007年1月4日宮崎日日新聞http://www.the-miyanichi.co.jp/feature/chijisen/index73.html
[2]2007年12月12日読売新聞http://osaka.yomiuri.co.jp/tokusyu/o_chiji/op71212e.htm
[3]2008年1月28日読売新聞http://osaka.yomiuri.co.jp/tokusyu/o_chiji/op80128c.htm
[4]2008年1月21日毎日新聞http://mainichi.jp/kansai/osakaprefelection/news/20080121ddn003010013000c.html?inb=yt
[5]2008年1月30日産経新聞http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/e20080130002.html?C=S
[6]2008年2月6日朝日新聞http://www.asahi.com/politics/update/0206/OSK200802060074.html
[7]2007年5月28日宮崎日日新聞http://www.the-miyanichi.co.jp/contents/index.php?catid=111&blogid=16
[8]2008年2月6日
http://www.asahi.com/politics/update/0206/OSK200802060064.html