自治体シンクタンク設置に向けた取組み―「設置に向けた取組み」連載開始にあたって―

2008年02月27日 00:00 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎牧瀬 稔(財団法人地域開発研究所研究部 研究員)

自治体シンクタンクは多様である

『政策空間』vol.46からvol.48にかけて、既存の自治体シンクタンクに勤務する研究員からの寄稿があり、それぞれの立場から、当該自治体シンクタンクの現状と抱える問題について言及があった。

数年前までは、「自治体シンクタンク」という言葉は、ほとんど知られていなかった。しかし既存の自治体シンクタンクの躍動により、この言葉は少しずつ浸透しつつある。その中で筆者が危惧しているのは、「最近の傾向として『自治体シンクタンク』を一様に捉えてしまっているのではないか」と感じていることである。

中野区(vol.46)や宇都宮市(vol.47)、宗像市(vol.48)の論考を読むと、自治体シンクタンクは多様であることが理解できる。地域が抱える問題が多様であるように、その問題を解決するために登場した自治体シンクタンクも多様なのである。

いま一度「自治体シンクタンクは多様である」ということを認識しなくてはいけない。つまり、設置を検討している自治体は、既存の自治体シンクタンクにとらわれずに、地域性や地理的条件等を加味して、自由に自治体シンクタンクを設置してほしい。なお、自治体シンクタンクに関心のある読者は、三浦市(vol.3)、横須賀市(vol.6)、相模原市(vol.7)なども参照にしていただきたい。

自治体シンクタンクの必要性と不要性

わが国の人口は127,767,994人(2005年「国勢調査」)。これだけいると、自治体シンクタンクに関心を持つ者は少なくなく、しばしば筆者に自治体シンクタンクについて質問がよせられる(筆者は、2年前に海外で自治体シンクタンクについて報告した経験がある。それ以来、海外からも質問が届く。なお筆者の調査によれば、海外には自治体シンクタンクのような政策形成機関はない)。

質問する属性は自治体職員が多いが、首長、議員、シンクタンク研究員、大学教員、学生など多岐にわたっている。なかには一般人からの質問もある。筆者には、毎日のように自治体シンクタンクの質問が届く…というわけではないが、忘れた頃に、突如として、様々な立場の人から相談が届く。その質問や相談が、具体的な動きとなり、次年度に自治体シンクタンクを設置する自治体も少なくない。

その一方で、縮小・廃止される自治体シンクタンクも存在する。しかし全体的には、自治体シンクタンクの数は増加しつつあると思われる。

その最大の理由は、地方分権の流れが加速化しており、自治体シンクタンクのような政策形成機関が求められるからである。なお、使命を終えた自治体シンクタンクは縮小・廃止したほうがよい。最もいけないことは、役割を終えているのにもかかわらず、「ただ何となく」という感じで自治体シンクタンクを存続させていることである。

自治体シンクタンクのような政策形成機関は、大局的な視点で捉えれば、自治体の政策形成力を向上させることになる。ここで「ような」という部分に傍点をつけ強調している理由は、自治体の政策形成力を向上させるのは、自治体シンクタンクだけが手段ではないからである。

今日、自治体の政策形成力の向上は様々な手段がある。そして自治体シンクタンクは、その一つにすぎない。そのことを理解せず、安易な発想で自治体シンクタンクの設置に走ってしまう自治体が少なくないように思われる。

政策形成力と政策形成「能」力

自治体シンクタンクにとって、重要な意味を持つ語句(要素)がいくつかある。その一つが「政策形成」である。そこで、この言葉について考えたい。なお、ここでの見解は私見が入っており、読者に対しての問題提起という意味がある。

この「政策形成」という4文字を軸にして「政策形成力」と「政策形成能力」について考える。両者は同じような感じを受けるが、筆者は違うと捉えている。前者は5文字であり、後者は6文字である。つまり前者には「能」という1文字がないのである。

この言葉の違いについて、筆者は次のように考えている。それは、「自治体職員一人ひとりの『政策形成能力』が向上することにより、自治体総体としての『政策形成力』が増進する」。

つまり、主語が自治体職員(私人)ならば「政策形成能力」という言葉になり、一方で主語が自治体シンクタンクという組織・団体(法人)ならば「政策形成力」を用いることになる。

このことは、筆者が自治体シンクタンクを対象とした研究を進めていく過程で気がついたことである。そして数年くらい前から、意識的に「政策形成力」と「政策形成能力」を使い分けている。

読者に言わせれば、確かに、ここで記したことは、筆者がへりくつを並べているだけに映るかもしれない。しかし一番いけないことは、「政策形成力」と「政策形成能力」を混合し、意味不明のまま使用することである。大学教員の中にも、両者を明確にわけることなく、自由気ままに同一の論文内で使用していることが少なくない。このような大学教員の論文に接すると、知的水準を疑ってしまう(筆者も注意しなくてはいけない)。

なお、一般的に能力とは「物事を成し遂げることのできる力」という意味である。そして、力とは「そのものに本来備わっていて、発揮されることが期待できる働き」や「ほかに働きかけて影響を与えるもの」という意味がある。

ここで記した「政策形成力」と「政策形成能力」の違いに加え、自治体シンクタンクにとって重要な語句(要素)には、「政策形成(力)」と「政策立案(力)」がある。また「政策実現(性)」と「政策反映(性)」の意味の違いなどについても、本稿において言及したかった。しかし紙幅の都合上、次回に執筆の機会があるならば、その時に論じたい。なお、ここで記したことは、筆者のブログにおいても記しているため、興味のある読者は、ご訪問いただきたい。

設置を目指す自治体はどうなっているのか

この『政策空間』における「自治体シンクタンク」シリーズは、次回から、ますます佳境に入っていく(かもしれない)。

次回から数回は、自治体シンクタンクの設置を検討している自治体からの寄稿である。この「検討している」段階は、様々なレベルがある。首長が積極的に設置を臨んでいる場合や、議員に指摘されて、いやいや(?)設置を考えている自治体もある。

何れにしろ、設置を検討している(提案している)、自治体に「どのようなシンクタンクにするのか」「目指すところは何か」「設置過程の悩み」等について執筆してもらう。ただし、筆者が執筆を依頼している自治体は、現在、設置を検討している最中ため、担当の自治体職員は秘密保持などの理由から自由に書けないことも想定される。そこで、その場合は、自治体職員ではなく、首長や議員などに執筆してもらう予定である。

最後になるが、筆者が『政策空間』に寄稿する際は、いつも肩の力を抜いて執筆している。その結果、『政策空間』には馴染まない軟派な論考になってしまっている(ような気がする)。この点は、ご了承いただきたい。

自治体政策の現場に求められることは、「実際に使える政策」である。実際に使える政策を開発するためには、誰もが理解できる内容であり、かつ飽きさせない文章を作成しなくてはいけない。筆者は、少しでも、そのような文章を作成したく、若干の「おちゃらけ」的な雰囲気を入れつつ、いつも『政策空間』に寄稿する際は原稿を作成している。