教員採用試験は馴れ合いからの脱却を―公正性・質の確保の視点から―
2008年02月27日 00:00 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

◎金子弘(郵便事業株式会社 期間雇用社員)

教員採用もコネ有利?

2006年に行なわれた福岡市の小・中学校教員採用選考試験の試験問題が、元福岡市の教育関係者によって、事前に漏洩されていたことが明らかとなっている[1]。このような教員採用選考試験に係る不祥事は、以前にも起きており[2]、「出身校閥、有力者のコネ、血縁・地縁などが一部に作用する有利不利の実態」があるとの指摘もある[3]。

そこで、本稿は、教員採用選考試験において、公正性が確保されているのかを明らかにすることを目的とした。

教員採用選考試験の基本原理と問題点

教員採用選考試験の基本原理について、予算委員会第1分科会議録[4]によれば、当時の文部大臣は公立学校の教員は「教育職員免許状を有する者の中から教育公務員として全体の奉仕者たるにふさわしい資質と能力を備えている者を各県の教育委員会が選考する」と述べている。

また教員採用は教育公務員特例法第13条第1項の規定に基づき、学科試験及び人物・教養・適性についての面接試験により、能力・適性等を総合的に判断しているとされている[5]。

ここで大きな問題点がある。それは、文部科学省は、教員としてふさわしい資質、能力を持った者を確保することが重要あるとしている[6]が、教員採用選考試験は競争試験ではなく「選ぶ試験」であり、その選ぶ基準を含め権限が全て各地方公共団体の教育委員会にあるということである。では、全権を握っている教育委員会は公正性を確保しているのであろうか。

教員採用選考試験の実態
(1)採用選考の公正性

内閣府の統計調査[7]によれば、採用時点で教員採用候補者の身内に教育委員会関係者等がいる場合に、教員は「有利に働く面があると思う」、「多少、有利に働くことがあると思う」が合わせて58.9%に上っている中、内閣府規制改革推進室の統計調査[8]によれば、教員採用選考試験の採用選考方法・基準を公表しているのは、7県のみで[9]、39都道府県では公表しておらず、教員採用選考試験の公正性が確保されていない。

これは、閣議決定[10]に逸脱した行為であり、閣議決定は「行政内部では法解釈と同じ意味」であるとされている[11]ことから、国家行政組織を構成する上での基本的なことが、多くの教育委員会で欠如しているといえる。

さらに、教育再生に関する特別委員会議録[12]によれば、当時の文部科学省初等中等教育局長は、教員採用選考試験で採用された者が採用されるまでの間に教員採用選考試験を何回受験したのかといったことのデータは無いと述べており、文部科学省は教員採用選考試験が厳正に行われているのかどうかということを的確に把握していないことから、教員採用が厳正に実施されていないのではないかという懸念も払拭することはできない状況にある。

(2)試験問題の質

他方、教員採用選考試験問題での出題ミス[13]や市販の大学入試問題集をほぼ丸写ししての出題[14]が明らかとなっている。

また、文教委員会議録[15]によれば、当時の文部省教育助成局長は、各県で実施されている教員採用選考試験の試験問題等に関する調査は行っておらず、具体的なことを把握していないと述べているとともに、文部科学省初等中等教育局教職員課が公表している「公立学校教員採用選考試験の実施方法について」及び「教員採用等の改善に係る取組事例」の中で、試験問題等については、触れられていないことから、筆記試験問題の質が問題を作成する各教育委員会によってまちまちとなっており、一部で質が低下傾向にあるのではないかといえる[16]。

馴れ合いからの脱却を

以上のことから、多くの地方公共団体の教育委員会が実施する教員採用選考試験において、公正性が確保されていないといえるとともに、筆記試験は全国的な一定水準の質が担保されているわけではないといえる。

これらの背景には、大学等と教育委員会との間で(1)学卒者を教員として採用、(2)教員研修で協力、(3)学校運営改善で連携、(4)教員の大学院への受入れ、(5)退職教員等の大学教員としての再雇用、等といった持ちつ持たれつの馴れ合い関係にあることが要因であると考える。

よって、文部科学省は、閣議決定に逸脱している教育委員会に対して、地方自治法に基づく是正要求、是正指示を発動する[17]ことによって、適正な行政執行体制の実現を図るとともに、地方教育行政官の教育政策法務能力の向上方策[18]を講じるべきであると考える。

また、採用される教員の全国的な一定水準の質を担保するために、例えば、(1)教員として必要な能力の面にあたる筆記試験を国が実施することで、試験の質と採用される者の質を全国レベルで一定水準の確保を図る一方で、(2)教員としての資質の面を教育委員会が面接等を行い、その結果を総合的に判断して採用を決定するといった二層構造にすべきであると考える。

他方、東京都の現職校長が部下の教諭に教員採用選考試験を受けていた自分の子供の面接指導をさせていたとの報道[19]もあることから、教員採用候補者の関係者、例えば3親等内の親族が、当該教育委員会並びに地方公共団体にいる場合は、受験することができない規制を設けることが必要であると考える。

脚注

[1]福岡市教育委員会「試験問題漏えい疑惑調査委員会 最終報告」
[2]第120回国会衆議院文教委員会議録第5号(平成3年2月22日)、13頁、当時の文部省教育助成局長発言。
[3]毎日新聞、2007年1月14日
[4]第65回国会衆議院予算委員会第1分科会議録第4号(昭和46年2月23日)、11頁。
[5]第80回国会参議院予算委員会第4分科会会議録第1号(昭和52年4月13日)、25頁、当時の文部大臣発言。
[6]第126回国会衆議院予算委員会第3分科会議録第2号(平成5年3月5日)、12頁、当時の文部省教育助成局長発言。
[7]内閣府規制改革・民間開放推進会議「内閣府「教育委員会・学校法人アンケート及び教員アンケート調査結果」」(2005年12月5日)
[8]内閣府規制改革推進室「教育委員会アンケート回答結果集計表(抜粋)」(2007年2月15日)
[9]毎日新聞(2007年1月14日)において、採用選考基準を公表しているのは、14県・市にとどまっているとの指摘もある。
[10]内閣府規制改革・民間解放推進会議「規制改革・民間開放推進3か年計画(再改定)」(平成18年3月31日閣議決定)、252頁。
[11]内閣府規制改革・民間解放推進会議第33回教育ワーキンググループ議事概要(平成18年3月29日)、9頁。
[12]第166回国会衆議院教育再生に関する特別委員会議録第7号(平成19年5月7日)、2頁。
[13]読売新聞、2007年7月20日、8月6日、9月29日。
[14]読売新聞、2007年5月20日。
[15]第104回国会衆議院文教委員会議録第12号(昭和61年5月14日)、6頁。
[16]読売新聞(2007年5月8日)によれば、東京都では、筆記試験の一般教養が廃止。
[17]内閣府規制改革会議イノベーション・生産性向上ワーキンググループ 教育・研究タスクフォース議事概要(平成19年3月9日)参照。
[18]教育政策法務能力の育成を目的とした専門職大学院を設置するとともに、国家資格試験(弁護士や医師)のような仕組みを創設する等によって、教育政策法務能力に秀でた者を養成すること。
[19]毎日新聞、2007年12月1日