小児治療危機を糺せ
2008年06月14日 14:55 : Comments (0) : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク

間中健介(特定非営利活動法人 政策過程研究機構 理事)

小児ガンは死因の第2位
 まずは下表を見ていただきたい。

年齢階層別死亡数(2006年)
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厚生労働省人口動態統計より筆者作成

日本人の死因の第1位はガンであるが、15歳未満においても、ガンは死因の第2位である。もっとも、「不慮の事故」は病気ではないため、「病気」の死因でみればガンが1位である。

特定非営利活動法人小児がん治療開発サポート(SUCCESS)によると、小児ガンの年間診断登録数は2,998件で、治療中の患者数は「小児悪性腫瘍登録人数」から19,124人とされる(いずれも平成15年度値)。発症後の生存率はガンの種類によって異なるが、15歳-19歳未満までを含めると、毎日約800-900人の未成年者が、ガンによって命を終えているとされている(財団法人がんの子供を守る会より)。
日本全国のガン患者総数は140万人強なので、小児ガン患者はそのなかの1%強を占めるに過ぎないが、人間の成育に最も影響が大きい時期に闘病生活を送ること、(俗に“キャリーオーバー”と言われる)治癒後も体の変調に悩まされながら人生を送る人が少なくないことからも、“成人のガン対策の一部”として扱うことはできない。患者の両親も若くて働き盛りである場合が多く、両親自体のキャリア形成にも重大な影響をもたらすという側面も見逃せない。

病理的にみても、小児ガンは成人のガンと異なる。成人のガンの8割は胃ガンや肺ガンなど臓器のガンであるが、小児ガンの大半は「肉腫」である。小児や思春期のガンは白血病が全体の約30%と最も多く、次いで脳腫瘍や神経芽腫、リンパ腫が続く。

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これだけ見ても、成人のガンとはまったく別のアプローチが必要なことがわかるが、治療開発、提供体制とも現状では十分でない。

小児ガンは治っていない!
小児ガン医療は、患者とその家族、支援者たちの努力もあって、緩やかながらも進歩しつつある。5年生存率も60〜70%と、不治の病とされた一昔前と比較して、改善に向かってはいる。

だからこそ、医学の進歩をさらに行き届かせ、より多くの子どもたちを救わなければならない。米国での5年生存率は80%とされていることからも、まだまだ助かるべき子どもの命が失われていると言わざるを得ない。
 
小児ガン専門医の不在
 周知のとおり小児医療の現場では医師不足が深刻だが、小児ガンではさらに深刻である。

 現在、国立高度専門医療センター(通称:ナショナルセンター)の国立がんセンターと国立成育医療センターに所属する小児ガン専門医は、レジデントを含めても合計7-8名程度。また、全国の公立医療機関に所属する小児がん専門医は、各地で小児がんを扱う診療科を閉鎖する動きもあり、わずか10名ほどというありさまだ。国立がんセンターについては、東京都中央区の中央病院には小児科があるが、千葉県柏市の東病院には小児科がない。

 現場では1人の医師が10人以上の小児・思春期がん入院患者を診ながら外来も担当するという激務を強いられており、これではすべての患者に対し機動的で充実した治療は提供され得ない。

 2006年に成立した「がん対策基本法」のもと、立ち遅れている放射線療法・化学療法の推進と専門医の育成に舵を切ったガン医療だが、小児ガン分野では大きな取り組みは見られていない。

単発的、限定的な臨床研究
部位によっては患者数が年間数人という小児ガンにおいては、製薬会社が俗に「10年200億円」ともいわれる負担を投じて新薬の治験を進める環境は望めない。小児ガンの治療開発においては、既存の薬や治療法を活用した臨床試験の推進が欠かせず、米国においても臨床試験の継続を通して治療成績が向上していった。

臨床試験を推進する上で、まず重要となる主体は厚生労働省、医師や医療機関の研究グループ、学会である。だが、ここでも米国との歴然とした差がある。

米国とカナダの医療機関が参加する小児ガン臨床研究グループChildren’s Oncology Group (COG)では、すべての小児ガン種をカバーし、包括的な治療開発体制を確立している。このための予算にはNational Childhood Cancer Foundation (NCCF)の年間予算5,400万USドル(Fiscal Year 2007)などが活用されている。NCCFの収入の約8割(約4,100万USドル)は連邦政府の拠出で、残り約2割(約1,000万USドル)は企業や個人からの寄付金や拠出金である。この予算を活用することで年間130の臨床研究が進められている。

一方、日本では、330億円ほどの厚生労働科学研究費のうち、小児ガン関連研究に当てられているのはわずか2億円ほど。これが毎年2つか3つの臨床研究班に投じられているに過ぎない。規模的に限定されていることに加え、1課題1研究という性質上、疾患をまたぐ横断的研究が進められない。

進まない症例蓄積とノウハウ共有
希少疾患だからこそ、全国規模で症例を蓄積し、EBM(Evidence Based Medicine: 最良の根拠に基づいた治療)を推進しなければならない。だが、学会、研究者グループが疾患の特徴ごとや、医師の属人的関係に基づいて別々に活動し、限られた資源の獲得合戦をしている現状では、研究資源と成果の共有には遠い状況だ。米国でCOGなどが中核となって症例データベースが整備され、IDとパスワードを入力すれば各地の医師が膨大なデータにアクセスできる状況とは雲泥の差がある。

10年後の治療危機を防ぐために
何人かの小児科医が「このままでは10年後には、日本で小児の難病を治療できなくなる」とコメントしている。医師不足はいつになったら解決するのか? いつになったら患者に新しい治療法を提供できるのか? 突然、自分が診たことのない疾患の患者が現れたとき、アクセスし得るデータベースは整備されているか…。 

治療開発の局面では、関係主体ごとの縦割り構造が臨床試験推進、標準治療の確立を妨げており、有限なリソースを浪費させている。国による現状変革への取り組みも緩い。そうこうしているうちに、現場の医師と患者に苦労が押し付けられている。

縦割りは子どもたちには何の関係もない。治療の提供と開発に関わる主体の、一丸となった取り組みが求められる。

<参考資料等>
・厚生労働省 平成17年度患者調査
・「小児がん医療の問題点」麦島秀雄 2006年12月20日「がん対策の推進に関する意見交換会」資料
・CureSearch, National Childhood Cancer Foundation, Children’s Oncology Group, Annual Report 2007