地域を滅ぼすシンクタンクの活動

2010年09月16日 13:53 : Trackback (0) : このエントリーを含むはてなブックマーク


牧瀬稔(財団法人地域開発研究所研究部研究員 )

◇シンクタンクの存在意義とは何だろうか

 今日では、様々な主体が地域再生に取り組みつつある。着実に成果を出している地域がある一方で、なかなか成功の軌道に乗らない地域もある。地域を活性化し、注目を集めている事例を抽出すると、小布施町(長野県)や大分県の由布市(湯布院町)、境港市(鳥取県)などが思い浮かぶが、少ない現状がある。あるいは、一定の成果が結実しても、それは一時的な成果に終始し、気がつくと再び地域が披露している状態に戻っていることが少なくない。つまり、持続可能な地域再生になっていないのである。

 地域再生を阻害する要因は、多方面から検討できる。その中で、シンクタンクの存在も地域の活力を抑圧する一つの要因となっているのではなかろうか。
 今日、地域再生におけるシンクタンクの功罪は多く語られる。その中で、「功」よりも「罪」のほうが多いような気がする。本稿において、シンクタンクを否定的な視点で捉えることにより、シンクタンクの存在意義を導出したい。自省も込めて、本稿では地域再生におけるシンクタンクの役割や機能について考えたい。

◇シンクタンクが地域再生をダメにする

 一般的にシンクタンクとは、「頭脳集団」と称される。またシンクタンクの活動は、社会や地域が抱える様々な問題を調査・研究し、具体的な解決策を提案することである。例えば『大辞泉』によると、「種々の分野の専門家を集め、国の政策決定や企業戦略の基礎研究、コンサルティングサービス、システム開発などを行う組織」と定義されている。そのほかにも、様々な学識者や報告書などが「シンクタンク」を定義している(詳細は、次の文献を参照されたい。牧瀬稔『政策形成の戦略と展開〜自治体シンクタンク序説』(2009年)東京法令出版
 ここではシンクタンクの定義を簡単に、「地域振興や地域活性化など地域政策のための調査・研究などを行う機関」とする。有名な機関として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社や株式会社日本総合研究所などがある。
 1960年代頃から、シンクタンクは地域振興や地域再生を手掛ける機関として、存在意義を見出してきた。シンクタンクは、客観的に地域の実情を把握し、適切な方向性を提案してくれるなどのメリットがある。それなりの意義も見いだせるが、昨今では、全体的には地域再生においてはマイナス要因として働いているような気がしてならない。
 一般的に、既存の多くのシンクタンクは地域の課題や問題点を解決するための調査・研究をして、報告書をだすことに主眼が置かれている場合が多い。しかしながら、地域再生で重要なのは、報告書で提言した内容を実施し実現していくことである。ところが、ほとんどのシンクタンクは地域再生を推進していく主体となることはない。
 もちろん、シンクタンク側に立てば、事業の主体になれない事情もある。そもそもシンクタンクが提案した内容を行政において、首長や理事者などの政策決定者が取捨選択し、選ばれた提案を自治体職員が実施していくことが、普通に想定される姿である。つまり、しばしば指摘されることであるが、「本来、地域再生は、その地域の関係者が主体的になって進めていくべきもの」ということがあげられる。しかし、この発言は建前であり、本音では、シンクタンクが報告書で提案した事業の実施までを担当すると「割に合わない」のである。
 また、シンクタンクに勤務する研究員にとって、地域再生のための調査・研究だけではなく、事業まで実施することは、極めて体力のいることである。その地域に入り込まなくてはいけない。筆者は、半月以上を地域に入り込むことが少なくない。心身ともに疲れてしまうこともある。そして同時にお金(費用)もかかる。筆者が所属するシンクタンクにおいては、かつて何度か調査・研究に加え、そこで提案した事業の実施まで行ったが、結果的に経費率が8割強に達してしまったこともある。これは人件費を除いての経費率であるため、実質は赤字を意味する。
 このような理由から、多くのシンクタンクは調査・研究だけに終始し、提案した内容には責任を持たないことが少なくない(制度的に責任を持てないということもある)。そして責任を持たないということを前提として、シンクタンクが当該地域に入ることは、単に地域をかき乱しただけに終始してしまう。このようなシンクタンクの行動が地域再生を成功に導くとは思えない。結局は、シンクタンクは地域再生の一つの障害となっている現実がある。

◇画一的な地域再生に寄与するシンクタンク

 真贋は定かではないが、シンクタンク業界でしばしば指摘されていることがある。それはシンクタンクが提示する報告書は、地方自治体名を変えることにより、どの地方自治体でも流用できてしまうという噂である。例えば「相模原市における地域活性化に関する方向性に関する調査」という報告書があったとする。この報告書は相模原市に向けた内容であるが、この「相模原市」を「横須賀市」に置換するだけで、横須賀市を対象とした報告書を新たにつくりあげてしまうという事実である。このことは、シンクタンク業界においてまとこしやかに囁かれている。
 なお、このふざけた行為を許してしまう一つの原因は、地方自治体にも責任がある。それぞれの地方自治体が特徴的な行政運営を実施していれば、ここで指摘したシンクタンクのふざけた行為は防げるはずである。しかしながら、実際はどの地方自治体も画一的な行政運営をしている現状がある。一例として、地方自治体が掲げる基本構想の理念は、どの地方自治体でも当てはまるスローガンでまとめられている。もっと特徴的なスローガンがあってもよいと思う。このような事情が、シンクタンクのふざけた行為を許容させる一つの要因ともなっている。
 話は戻るが、確かにシンクタンクが上記の手法を採用する気持ちも分からないでもない。なぜならば、シンクタンクも民間企業であり、同じ報告書を少し変えて流用したほうが効率もよく、利益も拡大するからである。民間企業であるからには、利潤最大化を目的であるため、効率よく進めようというインセンティブが強く働く。しかしこの手法を採用すると、それはシンクタンクが意図的につくりあげた画一的な地域の誕生であり、地域再生を妨げる要因ともなる。
 本当に地域を活性化させていく気概があるのならば、シンクタンクの研究員は、その地域に入り込まなくてはいけない。そして単に表面的に調査・研究をするだけではなく、実際に現場に深く入り込み具体的な事業も実施していかなくてはいけないだろう。特に事業を実施していく過程では、地元住民との衝突も予測される。また研究員が第三者として、地方自治体と地元住民の間に入り合意形成していく役割も求められる。これは実に嫌な役回りである。心身ともに疲れてしまう。しかし実際に現場に入り込み、地域再生していく過程に重きをおいた調査・研究と実践の両輪を繰り広げていくことにより、その地域だけの独自性を備えた地域が創造されていくものである。これは筆者の経験から指摘できる史実である。
 地域に入り込み、地域とともに研究員も汗を流していく重要性は、シンクタンクに勤務する研究員は認識していると思われる。しかしこのような取組みは、民間企業であるシンクタンクにとっては、自らの首を絞めることにつながってしまう。研究員が地域に入り込めば入り込むほど、費用がかかるため、民間企業としてのシンクタンクの財政事情が逼迫しかねない。つまり、「地域は潤い、シンクタンクは倒産する」という状況になりかねない。

◇本当は地域に入り込みたい。けど・・・

 シンクタンクに勤務する個々の研究員は、地域の中に入り込み、地域再生に向けて全力を注ぎ込んでいく意向はある。しかしながら、シンクタンク研究員も民間企業の勤務する一人のサラリーマンである。サラリーマンという立場で考えると、身銭を切ってまで、地域の活性化に全力を注ぐという行動はなかなか出来ない。そして結果として、民間企業としてのシンクタンクの効率性や採算性を考えてしまう傾向がある。この後者の民間企業としてのシンクタンクの行動が結果として、地域再生を導出させることなく、単に地域をかき乱しただけに終始し、地域をダメにしてしまう原因と考えられる。
 本稿は、問題提起を込めて、地域再生におけるシンクタンクの罪について言及してみた。筆者はシンクタンクに勤務して10年以上が経過した。その経緯の中で、日ごろ抱いている感想を記してみた。なお、地域再生を阻害する要因として、お上から(国主導)の地域再生にも原因があると考える。また、ある意味、無責任とも言える地方自治体の地域再生の取り組みも指摘できる。これらの点については、機会ある時に言及したい。 (1)


(1)本稿は筆者が共著の一人に連ねている『地域再生のヒント』(日本経済評論社)における原稿の一部を抜粋したものである。


プロフィール
法政大学大学院博士課程人間社会研究科修了。博士(人間福祉)。横須賀市都市政策研究所、(財)日本都市センター研究室を経て(財)地域開発研究所研究部勤務。法政大学社会学部・現代福祉学部兼任講師、法政大学大学院政策科学研究科兼任講師、東京農業大学国際食料情報学部非常勤講師を兼ねる。主な著書に、『条例で学ぶ政策づくり入門』(2009年・単著)『政策形成の戦略と展開〜自治体シンクタンク序説』(2009年・単著)など多数。公的活動としては、内閣府「『家族・地域のきずな』の取り組みに関する研究会」委員、横須賀市「(仮称)市民安全条例検討委員会」委員(副委員長)、新宿自治創造研究所政策形成アドバイザー、戸田市政策研究所政策形成アドバイザー、(社)日本経営協会「自治体総合フェア企画委員会」委員など多数